■24日昼、イオップとイオップの場合

カファの格好を見るなり、おれは呟いた。
「なんだよそれ」
は、とカファがきょとんとした目でおれを見る。
そんな顔もかわいいな。じゃなくて。
「サンタの格好」
「見ればわかる」
そうじゃなくて。いやそうだけどよ。
問題はそのズボンの丈だ。膝上より股下から数えた方が早いズボンなんてあってたまるか。
太腿の真ん中くらいまである長いタイツと、短いズボンの間には、ほんのちょっとだけ素肌が見えている。
柔らかくて白いその内腿の奥には……ちがう、そうじゃなくて。
「似合わないかな、やっぱり」
そんなことない。めちゃくちゃかわいい。かわいい。
かわいすぎてどうにかなりそうだ。自信を持っていえる。おれの股間がブロックル。
このまま押し倒してめちゃくちゃにしてやりたい。
まだ昼だよと言うカファを押さえつけて…じゃない!
落ち着けおれ!! いや無理だ!! カファのこの格好で欲情しないとか不感症か!!
「…どれっど?」
妙に興奮しているおれに、カファが不思議そうにおれを呼んだ。
答える代わりにキスをして、そのまま押し倒した。

残念な思考回路? 馬鹿言え。男として正常な反応だ。





■24日夜、サクリエールとオサモダスの夫婦の場合

ぎゅ、とその大きな背中に抱きついた。
がっしりとした身体は、彼女の腕には大きく余る。
「あったかいー」
サクリエールは体温が高いという話は本当なのだろう。だってこの真冬でも彼らは半裸に近い。
「人を暖房器具代わりにすんな」
苦い笑いが降ってくる。それでも振り払わないと言うことは、いいということだろう。
回した腕に力を込めて密着すれば、赤い筋が走る手が彼女の頭を撫でた。
「そんなに寒いんなら…」
ひょい、と軽々と抱えあげた。彼の右手が背中に、左手が膝の裏に。いわゆる、姫抱き。
「ぅ、え、わ…!!!」
「軽いな。ちゃんと食べてるか?」
血と同じ色をした瞳が彼女を捉える。耳どころか首まで真っ赤にして、彼女は抱えられたまま硬直した。
うろたえる妻に構わず、彼は寝室の扉を蹴り開ける。入り際に足で閉める。
行儀が悪いと怒られてしまうだろうが、両手が塞がっているので仕方ない。
「さて、と」
サクリエールにまとわりつく野蛮なイメージに反して、優しくベッドに下ろす。

「寒がりさんをベッドで暖めるとするか」





■24日夜、スチーマー夫婦の場合

「ノエル、ねぇ」
街を飾る風景を見渡し、不思議そうにシャルロッタが呟いた。
アマクナに降り立って初めてのノエルだ。
海の民にこの行事がなかったわけではない。しかし、スチーマーたちの行うそれとは少しばかり様相が違っていた。
「初ノエルと言っても過言ではありませんわね」
せっかくなので隅々まで楽しんでみたいとシャルロッタは思う。しかし、それは難しいようだ。
「誰かさんはサンタの格好を断りますし」
「…悪かったな」
ばつが悪そうにシアランが言った。
せっかくのノエルなのだからそれっぽい格好をしてみたかったというのに、シアランが断固拒否をしたのだ。
「ロッタ嬢のサンタコス見たかったわぁ」
心底残念そうにおおだぬきが肩を落とした。
「そんなにルドルフの格好が嫌だったか」
赤鼻の間抜けな格好は男のプライドに関わるということか。
断固拒否の理由をそう推測して、おおだぬきがシアランに訊ねる。
シアランが無言で首を振る。それより、とシアランが街の一角を指す。
「……おひとり様限定、鶏肉料理食べ放題」
「フー! フゥー! そこの唐揚げちゃぁあん!!」
シアランが読み上げた看板の見出しに、おおだぬきが歓喜した。
文字通り突撃していくおおだぬきの背中を見送る。
「賑やかですわね」
どうやら食べ放題のメニューに唐揚げはあったようだ。聞こえてきた歓喜の声にシャルロッタが苦笑する。
シアランもまた、表情に出さないものの、内心同じ思いだろう。
「それで、」
巻き髪を揺らして振り返る。この場にいるのは二人きり。
「拒否した理由、私には教えてくれてもいいんじゃありませんの?」
あれほど強い拒否を示した理由は何か。
「…スカートの丈」
シャルロッタが着るつもりだったサンタ服のスカートの丈が短すぎる、と。
そう訴えるシアランにシャルロッタは苦笑する。
あれほど脚が剥き出しでは、他の飢えた狼どもの餌食になってしまう。そういうことだろう。
「そんな隙なんかないじゃないですの」
いつも一緒にいるのだ。ふたりが離れる時間などトイレの時くらいだとまわりから揶揄されるほどに。
それならば、よその男が横からかすめ取る隙などありはしない。
「そうじゃなくて」
それもある。が、それよりも。
「…内腿につけてあるから」
「何をですの?」
訊ねるシャルロッタに、キスマーク、とさらりと答える。
「ミニスカートなんてはいたら見えるぞ」
シャルロッタはどうも、それを隠したがる傾向にあるようだ。その姿に嗜虐心がわいてしまうのだけれど。
隠したがる人間が見えるような服を着て、それに気付いたらどうなるか。
早く言えとシャルロッタは怒るだろう。だからそうなる前に、早く言っておく。
「…まぁ、」
わざとらしく言葉を切る。顔が赤いシャルロッタの耳元に唇を寄せて囁いた。

「俺は、見せつけてやれって思うけどな」





■24日夜、サクリエールとイオップの夫婦の場合

「おい暖房つけろ」
「いらねぇだろ」
暑がりと寒がりの両極端な双子のやりとりを聞きながら、ぶるべりんは拳を握った。
せっかくのノエルの夜なのだから、愛しの嫁と存分にいちゃつこうと思ったのに、これだ。
この日を解っているのか解っていないのかあえて無視しているのか、瀕死同盟が集ってしまった。
げらっちゃとしずくなみは酒の井戸水割りで酔っ払い、シャアラは何故か大爆笑している。
酔いが回りきったたんすにゴンはゾバル伝統のステップを踏んで脚がもつれてテーブルの料理に顔面から突っ込んだ。
お祭り騒ぎだが、ちゃっかりシアランとシャルロッタの姿はない。
「集ったって言うか、俺が呼んだというか」
アイアンがさらりと言い放った。アイアンが仕掛けたということは、その片割れも荷担したということだ。
「なんでそんなこと…」
おのれ、俺のフライング剣がじゅうじぐにブロックルするはずだったのに。ぶるべりんが怒りに歯噛みする。
「え、なんでって」
笑いすぎて呼吸困難に陥りかけているシャアラの背中をさすってやりつつ、ばきゅんが目を瞬かせた。
何故ってそりゃぁ、決まりきっている。
「リア充が憎らしいからだよ!!!」

てめぇこの野郎!!





■25日朝、エニリプサとクラの夫婦の場合

窓から射し込む光の眩しさに目が覚めた。
枕元の時計を確認して、腕の中の妻に声をかけた。
「ラヴィティア」
呼びかければ、ん、と呻いて薄く目が開かれた。
「おはよう」
まだ半分夢の中なのか、ラヴィティアの声音はふわふわと漂っているよう。
起きろと促すように額にキスをして、せかいふは一足先にベッドから抜け出した。
寝不足。そして身体のだるさは抜けていない。
我ながら昨日は頑張りすぎた。嫁が可愛いのが悪い。
自分がこうなのだから、それを一身に受けた妻は相当負担だっただろう。
ちゃんと起き上がれるだろうか。引き出しから下着を引きずり出して身につけながらベッドを振り返る。
「…腰痛い……」
起き上がれた、が、動けない。呟くラヴィティアにせかいふが苦笑した。
腰痛は回復の呪文でどうにかなるだろうか。思考を巡らせながら、ズボンの腰紐を結ぶ。
「…どうした?」
せかいふが着替える光景を見つめているラヴィティアに怪訝そうに訊ねた。
何をそう凝視するようなことがあっただろうか。
「背中」
ラヴィティアがせかいふの背中を指し示す。
背中の肩胛骨、翼の付け根あたりに蚯蚓腫れがあったのだ。
それはまだ新しいものから、少し日が経った古いものまで。
エニリプサならこれくらいの傷くらい簡単に治せるはずだ。特にせかいふは熟練のエニリプサなのだから苦でもないはず。
そう言うラヴィティアに、せかいふはようやく合点がいった。
「大したことじゃないよ。あえて言うなら、名誉の損傷ってやつ」
「どういうこと?」
首を傾げるラヴィティア。これは解りやすく説明する必要があるだろう。
傷の説明をするのに手っとり早い方法を思いついたせかいふの表情が悪戯を思いついた子供のそれに変わる。
「つまり、だ」
せかいふがラヴィティアを正面から抱きしめる。
ぎゅ、と密着する二つの身体。
「この状態で、ラヴィティアが俺に抱きついてみて」
言われ、ラヴィティアは素直にそれに従った。
せかいふの背中に腕を回す。ラヴィティアの手は蚯蚓腫れがある肩胛骨のあたりへ。
「え、あ……!!!」
ようやく傷の理由を思い当たったラヴィティアが耳まで真っ赤に染まった。

「つまり、そういうこと」





■24日夜、サクリエールとエニリプサの場合

今日もシルヴェスタはアストゥルーブの街頭に立つ。
カップルたちで埋まる雑踏に視線を走らせ、独りの男を探し出す。
「ねぇ、お兄さん、今夜ひとり? ボクもなんだ。一緒にどう?」
ひとりのゾバルに声をかけた。が、断られた。
「シルヴェスタ?」
新たな獲物を見つけようとするシルヴェスタに声がかかった。
振り返る。明るい黄緑の髪が視界に入った。
「あ、ジェニスタ」
「なにやってるの、こんなところで」
そこにいたのはシルヴェスタの知り合いのエニリプサの少年で。
彼が抱えている紙袋からシャンパンの瓶が見えた。
「なにって……お仕事だよ」
この職業に休みはないんだとシルヴェスタが言えば、苦笑いが返ってきた。
「そうだ。ねぇ、クリスマスに思い出作らない? 同じエニリプサの縁で安くするよ?」
「ぼくを誘わないでよ…」
値段を提示するシルヴェスタに彼は大きな溜息を吐いた。
買うつもりはない。今晩はギルドメンバーと宴会をするつもりだし、何より彼には相手がいる。
「おい、てめぇ何やってんだ」
突如として割り込んできたのは大柄なサクリエール。ヴェステル、とシルヴェスタが呟いた。
「んな日にまで売ってんじゃねぇよ。…悪いな、借りてくぞ」
来い、と返事を待たずシルヴェスタを引っ張っていく。
まったくもって強引だ。おとなしく引きずられながら、シルヴェスタはジェニスタに手を振った。
「なに? 買ってくれるの?」
腕を掴まれて連れていかれ、雑踏から離れたあたりでシルヴェスタが口を開いた。
ついでに4本の指を立てて値段を提示する。高ぇよバカ、とサクリエールが言った。
「こんな日にてめぇが他の男の下で喘ぐのが気に入らねぇだけだ」
そう言って、彼は自宅の扉を押し開く。シルヴェスタを連れ込んで、そのままベッドへ直行。
「…相変わらず乱暴だね」
「うるせぇよ」
いいから黙って喘いでろ。難しい要求をして、彼はシルヴェスタに覆いかぶさった。





■24日夜、クラ夫婦の場合

「性夜ばっかり」
ノエルに染まる街を見て、シャオリーが呟いた。
シャオリー、というかこの夫婦に、道行くカップルのような夜は過ごすつもりはない。もちろん、やることはやるのだが。
「みんな若いなぁ」
俺おっさんだからなぁ。Nolaが呟いた。
そこまで欲に飢えてはいない。円熟した夫婦の余裕というやつである。
「さて、可愛い娘の枕元にプレゼントでも置いてきましょうか」
綺麗にラッピングしたノエルプレゼント。
これをシャロンの枕元に置けば、この夫婦にとってのノエルイベントは終わる。
「よろしくね」
Nolaがラッピングされた箱を小脇に抱える。
中身はずしりと重い。プレゼントについてはシャオリーに任せたので、彼は中身を知らない。
「ずいぶん重いな」
「そりゃぁ、砥石のセットだもの」
さらっとシャオリーが中身を答えた。
剣を持つシャロンが、その武器の切れ味を常に保てるようにとの贈り物だ。
成程、砥石ならばこの重量も納得できる。
「起こさないでよ」
「わかってるって」
了解したNolaはその任務を達成すべく、娘の寝室へ向かった。




メリークリスマス!!