双子だからと言って、何でもかんでも同じ訳じゃない。

「おいばきゅん。暖房つけろ」
「必要ないだろ」
寒い、と呟いたアイアンの要求をばきゅんが却下する。
なぜ暖房をつける必要があるのか。ふかふかの絨毯の上で膝に毛布を掛けているだけで十分ではないか。
「…必要ないだろ」
ばきゅんの却下にシアランが同意する。
彼の膝の上にはシャルロッタが鎮座している。そのシャルロッタの膝の上には毛布。
膝の上の妻の腹のあたりに手を組んで、抱き寄せるように座らせている。
「くっついてれば暖かいですわよ?」
ね、とシャルロッタが巻き髪を揺らして訊ねる。シアランが無言で頷いた。
腹のあたりで組まれたシアランの手は、右手が下で左手が上。やはり触れようとはしない鋼の手。
「あーあー、お熱いことで」
鼻白むおおだぬき。リア充爆発しろ。カボチャ野郎もげろ。
口にすると殴られるので黙っておくが、内心そんな言葉が渦巻いている。
「寒いなら、私のココ空いてますよ」
「藻は黙って座ってろ」
いつもの言葉で切り捨てる。得意げに立ち上がったヴァルリーが黙ってその場に座った。
「まぁくっついてれば暖かいのは同意だね」
頷くじゅうじぐ。
シアランとシャルロッタのようにくっついてみたいものだ。
しかし肝心のぶるべりんが照れて乗せようとしない。
「俺はくっつく相手もいないし、寒いんだよ。ということで暖房つけようぜ」
なおも重ねられるアイアンの要求。折れたばきゅんが渋々暖炉の薪に火を入れる。
「あったけー」
すぐさま暖炉の前に陣取るアイアン。シャロンもまた暖炉の前へと移動した。
「寒がりなの?」
新刊の読破にいそしんでいたシャオリーが本から顔を上げて訊ねた。
彼女の椅子は冷たくなることはないので、そこからある程度暖を取れる。暖房は必要ない。
シャオリーの問いにアイアンはうん、と肯定する。
「それで俺が暑がり」
ばきゅんが膝から毛布をはねのけて付け足した。暑い。
わざわざ暖房なんてつける必要ない温度だろうに。
「双子でも全然違うんだぁ」
シャアラが感嘆の声をあげた。双子だから体感も似たようなものだと思っていた。
「出た! 双子だからって何でも一緒だと思ってる奴!!」
びしりとばきゅんがシャアラを指した。
双子だからとひとくくりにされること何十年。そのたびに抗議している。
「それは双子の宿命だにゃー」
諦めろとシャロン。猫のように丸まって大きな欠伸を一つ。
「こいつと一緒にするなよ!!」
双子が同時に、お互いを指して言った。
「揃ってるじゃない」
一緒にするなと言った直後に、動きも言葉も一致しているじゃないか。
シャオリーの指摘に、ぐ、とつまるアイアンとばきゅん。
「いや、だからって」
「あんまりつべこべ言うと……」
なおも抗議しようとするアイアンに、シャオリーが膝の上の本を閉じる。
「双子って、いいわよね」
今までの文脈をかなぐり捨てて、シャオリーが唐突に意味深な言葉を吐いた。
その意味を正確に汲み取って、ぴたりと抗議の言葉を止めた。
つまり、これ以上食い下がるとお前らで薄い本を書くぞと。
「よろしい」
言外の脅しを察して黙った双子にシャオリーは満足そうに頷いて、膝の上の本をまた開いた。
見開きで描かれた濡れ場は、サクリエールとエニリプサのそれ。
今まさにフライング剣が再活性化のおまじないというところである。
「さすが………」
あっという間に黙らせたシャオリーの手腕にシャアラが舌を巻く。
見習いたくはないが、凄いものだと思う。
「まぁ、黙っても書くけどね」
さらりと言い放つ。
シャオリーが投げ込んだ言葉にアイアンとばきゅんが盛大に吹き出した。
「え、ちょ、シャオさん、待っ、えっ」
大混乱する双子。誰も指摘しないが、その動きも言葉もほぼ一致している。
揃ってどもる様子をシャルロッタが小さく笑った。
「ロロット、あんまり笑ってやるなよ」
可哀想だとたしなめるシアランもまた、内心面白がっている。
いつも不機嫌そうに固められた眉間のしわが減っている。
これは面白がっている。
「シアラン。あんたも手遅れだからね」
ほら、とシャオリーが積んでいた本の山から1冊の薄い本を取り出す。
びしりと音を立ててシアランが硬直した。
「………あらまぁ」
いつの間に夫がそんなことに。
シャルロッタの口からいろんな感情がない交ぜになった言葉が漏れた。
「ざまぁ」
ぶるべりんが口端を吊り上げた。
「ぶるべりん、あんたもよ」
「えっ」
シャオリーが提示した薄い本の見開き。
確かに紫色の肌のサクリエールがベッドの上で悶えている。
「しかもカラー…だと…」
なんてことだ。ぶるべりんが頭を抱えた。俺はそんな性癖じゃないのに。
「なんというオールスターやおい劇場」
おおだぬきが謎の包括。しずくなみが吹き出した。
「ねぇ、まま」
暖房の暖かさに眠気を誘われたのか、ふわふわとした語調のシャロンがシャオリーに言う。
「全員が一つのベッドにいる話はないの?」
「ないわね」
そういえばそんな話はまだ書いたことがない。
「そうね、書きましょうか」
いい案だ。さすが我が娘。シャオリーがにんまりと口端を持ち上げた。

「待てぇぇぇぇぇ!!!」

双子だけではなく、その場にいた男性全員が揃った声を上げた。