「新しい先生皆私達と同い年ぐらいに見えちゃうねー。カルロ先生って何歳なのかなー。」
「20歳らしーよ。」
「じゃあファーベル先生って何歳なのかなー。」
「20歳らしーよ。」
てん、てん、てん。3秒止まったミズハががばっとヒカトに食いついた。
「…えぇえええ!?あれなんかそれおかしいよ!?あれそれ私達より年下になっちゃうよ!?あれあれ!?」
「わたたたちょちょちょちょ危ないよミズハ灰ついちゃうよ。今更だよミズハ…あいつら頭おかしいっつかこの学校おかしい…。」
ねー、と言いながらヒカトが振り向いた先でルワーレがげんなりした。
「…私に話を振らないでくださいよ話を。」
「つか顧問でもないアンタが部室に居座ってるのもおかしいんだけどね?はー、アンタって教授にしちゃ異例の若さってのがウリだと思ってたんだけど世の中そうでもないんだねー。」
「あのですね、あんな常識破り×2と私を同じ土台で並べないでください。」
はぁ、と缶のお茶を啜りながらルワーレは溜息。
「普通20歳と言えば大学1年か2年ですよ?貴方達はちょっと特殊に年齢設定されてますけど。」
「メタなことを言うなメタなことを。」
「卒業もしてないような若さで教授になれる訳ないでしょう普通。どんなすっとんだ学歴しているやら、想像できなさすぎて逆に聞きたくないですね。」
「じゃあさぁじゃあさぁ。」
ぴょこんと青い跳ね髪を揺らして。妙にきらきらした目でミズハが割って入った。

「私達でも教授になれちゃうってことかな!?」

「…無理でしょう。」
「無理だと思うよ…?」
「無理じゃない!やればできる!」
すくっと立ちあがるミズハは気合い満点だ。呆れ返った二人など目にも入らない。
「何の教授できるかなー。お父さんみたいに史学かなー。でもあんまり得意じゃないんだよね史学。何がいいかなぁ。」
「僕…ミズハが何の科目なら得意なのか逆に聞きたいよ…?」
「あ、カップ麺論とかどうかな。」
「やめてなにその身体に悪そうな講義!」
「白衣きてー、眼鏡かけてー、どのカップ麺がどういう風に美味しいか講義するの。いいなぁ、楽しそう。」
きらり光る眼鏡、はためく白衣と青い髪、きりっとした笑顔、よく目立つ胸元。
ほんわほんわ想像したヒカトは真っ赤になって頭を抱えた。
「…白衣だめ。白衣だめ。なんでかって別に理由なんてないけどいやそもそも文系教授普通白衣着ないけどとにかく白衣だm」
「というかですね御空木瑞葉。」
ぴらり、とルワーレはうすっぺらい紙をつまんでミズハに見せつけた。ミズハの前期分成績表だ。
「教授になりたければまず本学を卒業できそうな単位を取得して頂かないと。」
「うわああああああああ!!!待って先生なんでそんなの持ってるのおおおおおおだめええええええ!!!!」
大慌てでミズハが成績表に飛び付く。ルワーレもあっさり成績表を返した。
「全く。先日のテストも芳しくない成績でしたし、もう少し頑張ってくださいよ。」
「うっうっ、ひかとぉ…怒られたよぉ…。」
「あーよしよしよし…。ミズハは間違いなく僕より頑張って勉強してるのにねぇ…。」
「なんでこんなおばかなのかな私…。…あ、それなら。」
ぴょこん、っとまた勢いよく顔を上げてヒカトを見つめた。
「ヒカトがなればいいんじゃないかな、教授!きっとなれるよ!」
「えっえっ、え?いやいやならないよ僕、別に教授になりたくなんて…。」
「ヒカトなんて元々眼鏡なんだからばっちりだよ!」
「ミズハ、眼鏡は決して教授の必須アイテムじゃないよ?」
ほら、と指さした先にいるのはルワーレ。
ミズハはくるっとルワーレを振りむいて、ヒカトに向き直って、しょぼんとした。
「……そっかぁー。」
「なんですか。すごく腹立たしいんですけどその落ちこみよう。眼鏡フェチかなんかですか。」
「ううんお父さんがかけてるから。」
「ファザコンでしたか。」
ふぅ、と溜息をついてルワーレは正面の椅子を見た。
「一番教授になった姿がイメージできそうなのはリヒルトな気がするんですが。」
そこで初めてリヒルトが読んでいた本から顔を上げた。
「えっ。カルロ教授とファーベル教授はたちなのか?うそぉ。」
「そこじゃねーよ今その話じゃねーよ。」
「そうだよ先輩なら教授になるのぴったりですよ!頭いいし!勉強大好きだし!」
「というか目指すのでしょう?院生。」
「えぇまぁ。もし院生になれたら頑張って教授を目指したいですね。教授職は俺の憧れですから。」
ぎゅっと本を抱きしめ、恍惚と目を閉じる。
「師匠のような教授になるのがずっと夢でしたから…!」
…やさぐれた顔で目を逸らすルワーレ、それをキモいと言わんばかりに眺めるヒカト、我が意を得たりと輝くミズハ、三者三様だった。
「で、なんでそんな話になったんだ?」
「えーと教授になりたいなって話になりまして!格好いいじゃないですか!」
「別に教授なんてそんないいものでは…。」
ぴろろろろ。そこでルワーレの携帯が鳴った。非通知だったがとりあえず取る。
「はいもしもs」
『あ、おじさまぁ?コーヒー豆無くなっちゃったんで買ってきてくれませんー?』
「はぁああ!?ちょっと!!あの豆高いんですよ!?誰が飲んでいいとッ…ああああちょっとそこで首洗って待ってなさい!!」
このクソ蛇腐れ蛇ッ、と罵声を吐きながらルワーレが慌ただしく退場した。

「…あれ、もしかして教授って結構ひまそう?」
「…ミズハ今頃気がついたの…。」
「いやいやあれでも教授職って結構忙しいはずだから…。」

「…あ。そうだ放課後カルロ先生とケーキ屋行くんだった。」
「「やっぱり暇そう。」」



とあるひのざつだん


fin.