「それではそもそも細胞とは何か。それは全ての生物が持つ微小な部屋状の下部構造であり、生物体の構造上・機能上の基本単位です。」
目立つ大きな耳を時折揺らしながら、医学部のカルロ教授は黒板へ大きな字を書いていく。静葉はそれをそのままノートへ書き写した。隣のヒカトが突っ伏して寝ているのは既におなじみの光景だ。
ところでなんで史学科なのに医学部の講義なんて取ってしまったんだろう。まぁいいや。
「ヒトの体は60兆個の細胞が集まって出来た約220種類の細胞組織で構成されています。これらの細胞の活動によって我々は活動することができるのです。さて、そこのあなた。」
ぴし、とチョークを持つ手が指さしたのはヒカトだった。
ぎょっとしたミズハは大慌てでヒカトを起こす。細い目でほんのり意地悪な笑みを浮かべ、カルロは寝ぼけ眼のヒカトに問いかけた。
「細胞の主なエネルギー源は何かわかりますか?」
「…あ?えーと…あー…炭水化物?」
寝起きだが聞かれたことはわかったらしい。ヒカトが答えるとカルロの耳が嬉しそうにぴょこんと跳ねた。
「その通り、素晴らしいですね。もっと言えば単糖であるグルコースです。つまり、」
そこで言葉を止めると、
カルロはおもむろに鞄へ手を伸ばし、それをひっくり返した。

「糖分が肝要、ということです。」

瞬時にして机の一角がチョコにマシュマロにケーキにブロック砂糖にと見渡す限り甘いものでいっぱいになった。
どよっ、と明らかに教室が引いたがカルロは意にも介さない。
「糖分の不足は疲労感や筋肉の減少を招きます。身体のエネルギーが不足しているためです。」
言いながらケーキをわしづかみ、手近なブロック砂糖をそのまま盛りつけていく。
「頭がボーっとして記憶力の低下も招きます。学ぶことの多い学生の皆さんにも糖分は大切ということですね。」
さらにそこへチョコを盛り、マシュマロを盛り。もはやケーキの原型すらわからない。
それを持ってカルロは、あまりの光景に頭がフリーズしているヒカトへ一歩、近づいた。
「んぐっ!?!?」
そして遠慮なくそれを口につっこんだのである。
「んぐぅっ、んーっ!!」
「うわあああヒカト!?ヒカト!?」
「さ、これでも食べて目を覚ましてください。きっと貴方も糖分不足ですよ。」
「いやいやいや先生どう見てもヒカト苦しそうだから!死んじゃう死んじゃう!」
「え、普通の量でしょう?」
「違うと思うよ!?」

「…イヴァン、あれ余ったら貰っていいかなぁ。」
「リヒはあの先生と気が合いそうだな…。」



しゅがー・えんじぇる


fin.