「――良いじゃろう。」
幼い少女は言った。どこか厳かな雰囲気で。
少女を囲む5人の人間が、目を光らせる。

「その依頼、引き受けよう。」




「ウトは東側から、チビ共は西側から行って来い。」
「りょーかいだよぉらぐなっ、行ってくるねぇ。」
「ラグナてめー誰がチビだ誰が!」
「あ、アダってばもう…了解だよ、ラグナ。」
「グラオは後ろ回っとけ。面倒なのがいたら潰しといてくれよな。」
「御意、ラグナ様。…ではラグナ様はどちらから?」
「野暮なこと訊いてんじゃねーよ。」
ぎらり。橙の目を光らせて、ラグナと呼ばれた男は全速力で駆けだした。

「――真ッ正面からに決まってんだろォッッ!!!」

だんっと派手に飛んで敵の渦中に飛び降りた。すかさず周囲に撃ち放つ銃弾の嵐。あっと言う間に彼の周囲が死体山になった。
「ッだ、誰だ貴様!?」
「通りすがりのォ、」
今更銃を向けたって遅い。
「ラグナ様でーーーーーッす!!」
自分に向いた銃全てに向かって、ラグナは二丁拳銃を乱射した。銃弾は相手を撃ち抜くと派手に爆発し、あたりの2・3人を巻き込んだ。爆弾をばらまいてるようなものだ。時折青い光線も発射し、撃たれた者は凍りついて砕けた。
走って、跳んで、回って。滅茶苦茶に暴れまわるようにラグナは撃ち続けた。相手だって集中砲火を浴びせてくる。身体中が銃弾をかすめて血まみれだ。けれどラグナは笑っていた。橙の瞳をらんらんと光らせ、ひどく楽しそうに笑って嗤って哂っていた。
「ひゃっひゃっひゃ!!こんなモンかァ!?足りねぇ足りねぇ足りねぇなァ!!もっと来いよ!束になって来いよ!!俺様にブッ殺されに来いよぉおおおッ!!!」
血まみれで哄笑を上げるラグナ。青ざめた敵がわずかに後ずさった。


そこにふっと影がさす。
轟く地響き。次の瞬間、影のさしたところがぐしゃりと潰れた。

「ひッ!?」
ぎりぎり免れた敵がざわついた。できた輪の中心で男が一人、きょとんとしている。裾を長く余らせた腕をぺたりと地面につけて。
その下では4・5人の人間が粉々に潰れていた。男はきょろきょろと周りを見渡すと、屈託なく笑った。
「こんにちはぁ。ぼくはねぇ、ウトだよぉ。よろしくねぇ。」
「ッ殺せ!!こいつを撃ち殺せ!!」
「わ、すごぉい。あそぶの?えへへっ、うれしいなぁ。あそぼうよあそぼうよぉ。」
ぴょこんっと男が立ちあがる。両腕を高く振り上げると再び振りおろした。どぉんッ、と地響きが轟き地面がひび割れる。下敷きになった人間は持っていた銃ごと潰されていた。
それを何度も何度も単調に繰り返していく。どぉん、どぉん。次々潰されていく人の群れ。
いつしか撃つことも忘れ、力なくへたり込んだ。化け物だ。勝てる訳がねぇ、化け物だ。
ウトと名乗った男はふらりと近づくと、にっこり無邪気に笑った。
「…えへへ。たのしいねぇ。たのしいねぇ。」
友達と楽しく遊んでいる時の、子どもの笑顔だった。
「おともだちいーっぱい。うれしいなぁ。うれしいなぁ。もっともっとあそぼうよぉ、ねっ?」


騒然とする東側に西側も気づき始めた。ばたばたと援軍に向かう中、背の低い影が走りまわっていた。
「ん?」
「あ…っ」
一人がその影と目が合う。それは小さな子どもだった。だぼっとしたピンクのコートを着た少年が怯えたように立ちつくす。
「おい、ガキがこんなとこで何やってんだ!出てけ!」
「ごっ、ごめんなさっ…!」
少年が駆けだした。出ていく方向、とは逆の方向に。注意した男がナめてるのかとキレかけた時。少年はぴたりと立ち止まった。東側エリアの、丁度中心点で。
少年の目がふっと赤く光る。
次の瞬間、あたり一帯に砂嵐が荒れ狂った。
「うわぁッ!?」
敵勢がパニックになった。一瞬で視界も塞がれるぐらいの砂嵐が起これば当然だ。しかも砂嵐は全く止む気配がない。
その中を少女が駆けていくのも誰も気づかなかった。ポニーテールをたなびかせ、縦横無尽に駆け回る。
「さーん、にーい、いーち、」
少女がぱちんと指を鳴らすと、残した足跡がぼうっと青く光り
「ゼロ!!」
地響きを上げて、鋭い岩の柱が空へと無数に突き立った。
砂煙が晴れるのと一緒に、砂嵐も晴れていく。地面をびっしり埋めるように生えたその先端には…夥しい量の死体が、串刺しになっていた。
「ッあっはははははははは!!!だっせーだっせー!!ひっかかってやんの!!ざーまぁ!!」
「ふふっ、あははっ!うまくいったね、アダ。」
「あったり前だろぉエス!アタシらがしくじる訳ねーじゃん!」
青いジャケットの少女と、桃色のコートの少年。双子の二人はよく似た笑顔で、ぱちんと手と手を鳴らした。
「ボクら二人は、」
「アタシら二人は、」
「「絶対無敵!」」


中央で暴れまわる二丁拳銃の男。
ライフルスコープの照準が、男の額にぴったり合った。
「ッが!」
その時すぐ隣から呻きが上がって、思わずそちらを振りむいた。そして目を瞠る。
さっきまでいなかったはずの闖入者が、刀で狙撃手を斬り捨てていたからだ。眼鏡をかけた和装の男。にぃやりと笑んで、こちらを見ていた。
「困りますねぇ…ラグナ様の邪魔は控えて頂けますかね。」
男に向かって弾薬の嵐が飛んだ。後ろに控えていたマシンガンの部隊だ。
男はひらりと上に飛んでそれをかわすと、ふっと消えた。
「貴様等如きラグナ様がお相手する程でもありません。」
傍にある木の上から声がした。男は弓を二本両手に持つと、頭上で十字に触れ合わせた。
「私、グラオが始末致しましょう。」
ぎぃぃぃぃん!触れ合わせた弓を思いきり引くと、強烈な音波が鳴り響いた。聞いてしまった者は頭が痺れて動けなくなる。
グラオと名乗った男は素早く降り立つと小刀で次々相手を斬り捨てていった。音波から解き放たれ銃を撃ち始める者も出てくる。それも器用に避けると袈裟斬りに斬り捨てた。噴き上がる血しぶきを浴びても、グラオは薄く笑んでみせるだけ。
一人が仕込み刀を抜いて、小刀へ叩きつけた。かきんっ、とグラオの小刀は飛んでいく。
目を瞠るグラオ。そこへ畳みかけるように斬りつけたが…それはかわされ、背中から蹴りを見舞われた。
「っぐ!…はッ、これでてめぇの得物は吹っ飛んだな…?」
蹴られた男が笑みを貼りつけてグラオを見た。飛んでいった小刀は、今からは拾いきれまい。
これでてめぇも終わりだ。
振り絞った力でマシンガンを構える男。…その膝がぐらりと、崩れ落ちた。

「…終わるのはテメーだよ。」
倒れた男の肌には、紫色の染みが見る間に広がっていった。毒色の染み。
「ラグナ様を狙うようなゴミ、生かす訳ねぇだろ。クソが。」




そこら中から上がる騒音と銃声と、叫び声。それらがふいにばったりと消える。
燻ぶっていた土煙が晴れると、ラグナがひょっこり顔を上げた。
「おーい、ユヤンよぉ。これで全部かぁ?」
ラグナの周囲はしんと静まり返り、血と臓物が地面を埋めている。
「あー、終わっちまったかー…なんつーか歯応えねーなァ。物足んねー。」
血まみれの手でがりがりと頭を掻くラグナ。その背中に向けて、死体山から伸びる手があった。
最後の死力を尽くして、撃つ。

しかしそれは届かなかった。
空中に現れた水の渦が、弾を叩き潰したからだ。
「阿呆。」
ふわり、水と共に現れたのは一人の少女。生き残りに手を翳すと、泥を撃ち出して爆発させた。
蒼い瞳がぼうっと光り、膨大な情報を閲覧した。それはこの先に起こる未来。今の一人で全員残さず殺せたと"確認"する。
ユヤンと呼ばれた少女は、ふぅと溜息をついた。
「一人でも残したら全滅とは言わん。しかも背中を取られるとは、相変わらずぬるいの。」
「っせーな…んな死にかけわかるかっつの。」
「仕様のない奴じゃ。…うむ、今ので間違いなく"全滅"じゃ。依頼達成。ごくろうじゃった、皆。」
立っているラグナ、ウト、アダ・エス、グラオ。
それ以外の人間が全て死体山となった中で…5人は、微笑んだ。




二丁拳銃の男と、未来を予知する少女。
この二人が率いる、名もない6人組のグループがあると言う。
依頼を受けて金を貰い、化け物のように暴れ尽くし、いかなる大群でも必ず始末する。
彼らは硝煙の香りを辿るように、各地をふらりと回っていた。




M
ud Bomb


(血溜まりから、赤い足跡が伸びていく。)

fin.