たのしいなぁ。たのしいなぁ。
剣をよけて、銃をよけて、ひらりひらりのおにごっこ。当たると痛い。だからよけなきゃ。どきどきするね。たのしい、たのしい。
今度はこっちからいくよ?
どぉんっ。袖越しに文字通り"手応え"を感じた。やった、ぼくの勝ち。
たのしいねぇ、たのしいねぇ。
残ってるのはウトと、相手一人。どっちが勝つかな。どきどきするね。
ウトが心底嬉しそうに、へらっと笑った。
「…えへへ。たのしいねぇ、たのしいねぇ。どっちがかつかなぁ。どきどきしちゃうね。」
ね、たのしいね。いっぱいどきどき、たのしいね。
うれしくてうれしくて。この楽しい時間が嬉しくて。跳ねるように飛びかかって、腕を振り下ろす。


「――ッ来るな、来るな化け物ッッ!!!」


…え?ウトの目が丸くなる。
叫んだ相手はくしゃっと潰れてしまったけれど。ぽたぽた血の滴る腕をだらっと垂らすウトに、もう笑顔はない。

…あれ?

たのしくなかった、のかなぁ?

「おーい、ウトぉー。」
遠くから間伸びた声がする。振り向くと、ラグナがウトを呼んでいた。
「終わったかー?帰んぞー。」
まんまるい瞳に、ウトはじっとラグナを映していた。





「ねー、らぐなぁー。」
報酬を数えるラグナの背中に、ウトがぴとっとくっついてきた。
「あ?なんだよ。」
「らぐなはきょうあそんだの、たのしかった?」
"あそんだの"が戦闘のことだと、ラグナはもうわかっているので。
くっくっと肩を震わせて笑った。
「ったりめーだろ、今日も最高だったぜェ?ぐじゃぐじゃ集まってちんたら撃ってくるところにドンッ!ってのがよぉ…ッあーたまんね。やっぱ相手が多けりゃ多い程楽しーな。」
「そっかぁー。」
「んだよ、シケた面してんなぁ。お前は楽しくなかったのか?」
「ううん、たのしかったぁ。」
でもねー、と言って、ウトは自分の腕に口をうずめた。
「あのひと、たのしくなかったのかなぁー。」
「あのひと?」
「うん。ばけものって、いわれた。」
もふー。力なくラグナへ寄りかかる。
いつも底抜けに無邪気な声が、しゅんとしおれていた。

あそびたい。なかよくたのしくあそびたい。いっしょにどきどきしたい。
でもあそんだともだちはみんなねちゃうの。おきてるのはぼくだけなの。
おやすみって。またあそぼうねって。なんどもいったよ。
でも、またあそんでくれたことは、ないの。

へんだよね。



「…ぼく、やっぱり"きもちわるい"、のかなぁ。」

だからみんな、あそんでくれなく、なるのかな。



「はーん。つまんねぇ奴だなァ、そいつ。」
さらっとラグナが言った。
「俺様に言わせりゃあ、てめーと戦った時ほど滾ったことはなかったな。」
「…そうなの?」
「お前みてーなとんでもねェのと初めて戦ったからな。あれは楽しかったなァ。殺られそうでぞくぞくしたし、あとあれだ。」
くしゃり。綺麗な水色の髪を、ラグナは撫でた。

「お前がすっげー楽しそうだったからな。」

わしわし撫でる手を、ウトがきょとんと見上げた。
「…ぼくがたのしいと、らぐなもたのしい?」
「んーまぁ、大体そういうこった。」
「…そっか。」
白い頬をほんのり桃色にして。
へらっと、笑った。
「そっか。」

らぐなはともだち。
あそんでおやすみしなかった、はじめてのともだち。
すごくすごくだいすきな、ともだち。

「ねぇねぇらぐなぁ、あしたあそぼっ!」
「お?いいぜェ久々じゃねーか。かかってきなァ。」

またあそぼうねっていえる、ともだち。




うしろのしょうめんだぁれ


(めをあけたら、らぐなたちがいるの。)

fin.