「今年もおっつかれー!つーことでまァ飲もうぜェ!」
「ちょっと待てぇえッ!!」




est!est!est!



え、何。と言わんばかりのラグナに雫が吠えた。
「んなんでてめェらがウチの忘年会にいるんだよッ!!」
畳み敷きな宴会会場のあちらこちらに、ちゃっかり座ってるラグナ一味。雫はぎろりと睨み回してから改めてラグナを睨む。当のラグナはぽかーんとしていた。
「え、いいじゃん大将がいいって言ったんだからよー。」
「んなわきゃねェだろ!!ねぇ蘭斗さん!」
「あ、いや言った。」
「蘭斗さんんんんんんッ!?」
ぐりんっと振り返った雫に蘭斗はぽりぽり頬を掻いた。
「やー、今日は暴れたりしねぇって言うしま、いいかなーと。」
「ったりめーだろォ天下の飲み会に戦るような野暮はしねェって。」
「ちょっ蘭斗さんそれでいいんスか!?それでいいんスか!?」
ショックを隠せない雫に灯籠組もやいのやいの言い始めた。
「ま、いいじゃねぇか暴れねぇなら。面白そうだし。」
「面白いかどうかは知らねーが…まぁ、蘭斗が決めちまったならしゃーねぇ。諦めろ雫。」
「そうデスヨ雫サン。あまりじたばたしても見苦しいデスヨ雫サン。」
「お前らああああそれでいいのかよおおおおお!!!」
「まぁまぁ雫、悪かったって。ちょっと落ち着いてくれよ。」
ぽむぽむ、と座布団を叩いて蘭斗が座るよう促す。雫が素直にそこへ座ると、ぽむっと肩に手を置く。
「多分大丈夫だと思うぜ。あいつ嘘は言わねぇ気がするしさ。」
「で、でも蘭斗さん…。」
「それになんかやらかすようなら俺も動くしさ。…お前らも酒入った程度でやられる程ヤワくねぇだろ?」
「…蘭斗さん…。」
じーんとする雫に、にこっと微笑む蘭斗。やれやれと他のメンツも苦笑した。どうやら忘年会は無事開催となりそうだ。


「…しゃーねぇな、蘭斗さんがいいって言うからだからな?」
「よっしゃー!タダ酒タダ酒ー!!」
「やっぱふざけんなお前!!!」




【雫さんとウトと辰弥さん】


「…そりゃ蘭斗さんがいいってんなら文句はねぇけどさぁー、ねぇけどさぁああああ。」
雫はごんっと音をたてて徳利を置いた。
「なぁんで恩もねぇ奴らにそれどころか襲いかかってきたような奴らに酒と食い物馳走しなきゃなんねぇんだよー!?」
「あるんじゃねぇか文句…。」
「酒だって食いもんだって俺らの働きで稼いだ金だぞー!ちきしょー!金払えー!」
「俺に言うな…ほんとめんどくせぇなお前…。」
同じく日本酒で相手をする辰弥が溜息をついた。クダを巻く雫はほんとにめんどくさい。
というかできれば日本酒じゃなくてジュースでも飲んでて欲しいんだが。1杯飲めば真っ赤になる奴がこれで何杯目だ。俺はもう知らない。
そこに。ぽむっと青いものがのしかかってきた。雫の肩口に。
「おにいさんはー、えっとー。」
げっ、と雫がひきつった。ウトだ。こいつに潰されかけた記憶はまだ新しい。まともに喰らった辰弥も少し緊張した。
「…あ?名前か?雫だよ、雫。」
「そっか、しずく!ぼくはねぇ、ウトだよぉ。」
「へいへい知ってるっつーの。」
思わず警戒したが、ウトの手にあるグラスを見て思い直す。あー、そうか、酒の席か。うん酒の席だよな蘭斗さんがいいつったんだしな。
「その…なんだ。楽しんでっか?」
ぎこちないながらも、年下を構うように雫が言う。するとウトがぱあっと笑った。
「うん!あのねぇあのねぇ、すっごくおいしい!」
「そ、そうか?」
「うんあのねぇ、かきフライとえびフライとやきとりがおいしくって、ちゃわんむしすごくおいしくって、あとねぇ、おさけすっごくおいしいよぉ。」
腕をぱたぱたしながらへにゃあと笑って、ウトがたくさんたくさん報告する。自分とこの料理をおいしいと言われれば悪い気はしなかった。雫は目を丸くして少し赤くなった頬をぽりぽりかいた。
「そ…そうか。」
「うん。おいしい!」
「ま、まぁそりゃな!当然だけどな!まぁでもお前話わかるじゃねぇか…おし!飲むぞ!」
「のむぞー!」
「程々にしとけよ?」

「とりあえずイッキすんぞウト!」
「程々にしろっつっただろ。」

辰弥の警告も無視して一気飲みが始まった。
さすがに日本酒だとガチで死ぬので焼酎で。二人してごくごくと何杯も飲みほしていった。
「…お前…まだ飲めんのかよ…意外といけんじゃねーか…。」
ちょっときつくなってきたかなーという顔で雫が訊く。実際は限界とっくに突破してふらっふらだったが。そして辰弥にはバレバレ。
ウトは両手で抱えてたグラスを降ろしてきょとんとすると、にこーっと笑った。

そして突然ぴょんっと、雫へ抱きつく。

唇に柔らかいものがふれて、さすがの雫も酔いが飛んだ。
目を丸くする雫の前でウトがにこにこしている。
「うん、おいしかったぁー。ごちそうさまぁー。」
「…………っえ…」

「なにちょっまっおまえなにしてなにしtttうわああああああああああああああああ刹那あああああああああああああああ!!!!!!!!」
「……だから程々にしとけって言ったろ…。」

fin.




【こどもぐみ】


「…あーあ…。」
困ったように呟く灯は、反面あまり困ってそうな顔をしてない。むしろ少しにやりとしている。
「ボク、こんなのバレたらものすごく怒られるんデスケド。」
「んだよビビってんのかよー?怖ぇんなら参加しなくたっていいんだぜー?」
「あ、アダってばもう…。ボクたちだってバレたらユヤンが怖いよ…?」
「う…そ、そんな事今は考えんなよエス!とにかくだなぁ…。」
宴会会場をこっそり抜け出した灯とアダとエスは、隣の別部屋にひっそり集まる。一同にぃやり悪戯な笑みを浮かべて、持ってきたコップで乾杯した。
「作戦成功!かんぱい!」
「かんぱぁい。」
「ハイハイ、乾杯。」
中身はいつものオレンジジュースじゃない。正真正銘の日本酒だ。三人が連携して大人たちからかすめ取ってきたのだ。
「いっひっひ、これでアタシらもオトナだなオトナ!」
「…正直キミ達にはまだ早いんじゃないデス?」
「んだとぉ!?てめーだってガキだろぉ!?」
「ボクは君達よりは年上デスシ。もう飲んだって構わないぐらいなんデスヨ。」
「嘘つけーちっちぇえくせによー!」
「誰がちっちゃいデスって。」
「や、やめなよ二人とも…ほ、ほらっ。一緒に飲も?」
その宥めでアダと灯は渋々引いた。特に灯は。なんというか生意気な子どもである自分より年下なのに。まぁその分自分は大人の寛容さを持ち合わせなければ。そんなことを思いながらコップの中身を一口飲む。

「……ッ」

三人、同時に固まった。
なんだ、この、むわっとしつつ抉るような苦味。
「……アダ……おいしくない…。」
「だ、黙れよエス!…いやそんな訳ねーだろあいつらうまそうに飲んでたしよ…。」
「で、でも苦いよアダ…。」
「なんでだ…。」
「………。」
ごくっごくっ。灯は口を離さず飲み続ける。
びっくりぽかーんとする双子の前で、ひきつりつつ不敵に笑んでみせた。

「…おいしいデスヨ。」
ボクは大人、デスからね!

「なっえっおまっ…ざっけんなー!アタシだってこんなもんヘーキだし!ヘーキだし!」
「無茶はしない方がいいデスヨ。」
「んだとぉチビ野郎ー!負けねぇし!てめーも無理すんじゃねーぞ!」
「チビじゃないデスあと無理なんてしてマセンシ。」
「あああああ二人ともだめだよぉそれきっといっぱい飲んだら駄目だよおおおお…!!!」



「…お前らなぁ…。」

ちゃっかり気づいてた樂が後から様子を見に来ると、部屋の中は死屍累々だった。

「なーにやってんだよこの馬鹿ども…。」
「うえええええ樂さんごめんなさいごめんなさいごめんなさいいいいい…!!」
「あーはいはい泣くな茶色いの。ほら運ぶの手伝いな。」

fin.




【大将ズ】


ひゃっひゃっひゃっひゃ、と無駄に陽気な笑い声が響く。

「やるじゃねーかよォ大将…まだイかねぇのかァ?」
「こんぐらいでトんでられっかよ…こっちもメンツかかってっからな。」
「おーい、お二人さん?」
樂が二人の会話に割り入った。
「お前らただ飲み比べをしてるだけってことと全年齢向けだって事忘れずに話せよ?」
「「よく意味がわからねぇ。」」
「そーかい。」
面倒になって樂は投げた。
このばらっばら転がる徳利を避け歩くだけでも面倒だってのに、うちの頭ときたら。そして向こうの頭も大概面倒だということがよくわかった。
ま、面白いからいいけど。
「そういやラグナつったっけかアンタ。」
呼ばれたラグナがきょとっと振り向いた。
「絡み癖あんだなぁアンタ。」
「ひゃっひゃ!おめーさっきから言ってる意味がよーくわっかんねェぜェ〜?」
呂律の怪しいラグナの右腕は、蘭斗の肩に絡まっていた。空いた腕でこの後に及んで日本酒を飲みほしていく。おいおい、ぶっ潰れても知らねーぞ。

「しっかし酒まで強ぇのかよォ大将。」
飲みほした猪口を、くいっと蘭斗の顎に押し当てる。酔ってぼやけた三白眼で上目遣いに、にぃやり。
「シビれるねェ、強ェ奴は好きだぜェ…アンタといるとヤりたくてぞくぞくしちまうな。」
対する蘭斗もぼやけた瞳で、ふっと余裕に微笑む。
「そう焦んなって…今日はこの場に皆もいるしな。日を改めて来いよ、いつでも相手してやっからさ。」
「ひゅーう!イイ心意気じゃねーの大将。惚れちまうねェ!」
「はっ、俺もお前みたいな奴は嫌いじゃねーよ。」
「…だからなーお前ら。」

ぱりんぐしゃッ。グラオの手の中でコップが割れた。
「うんお前も落ちつけ頼むから落ち着いてくれ面倒だから。」

fin.


(※ヤる=戦るor殺る)