噛みついた牙越しに、ありあり伝わる身体の震え。

「…っ」
そのクセ声だけは押し殺すのだ。変な意地張ってんなァ。
食いしばる歯を強引に舌で割り入った。震える肩を押さえつけて。さながら捕食する肉食獣のようだ。
(…大差ねェか。)
唇を離せば蘭斗は朦朧と目を細める。拙い呼吸にじわっと赤い目の縁。そんなものがいちいち美味そうで、唇を舐めたラグナはその喉に噛みつくのだった。
「ッ…!」
びくんっ、と肩が跳ねたにも関わらず。やっぱり声は押し殺した。シーツを握りしめる手がひどく必死だ。
…はーん。可愛いっちゃ可愛いんだが少しばかりイラついた。上げまいとされると、上げさせてみたくなるもので。
「…意地張ってられんのも今のうちだぜェ、大将?」
耳元で低く囁くと、びくっと蘭斗が目を瞠った。対してラグナは獰猛に細める。
実のとこそこまで余裕がないのは見てればわかる。
案の定、太腿を撫で上げただけできゅうっと目を瞑り背を反った。
「声上げりゃあいいのによ。素直になっちまいなァ。」
「っ…うっせ…。」
「はーん。そー言われると無理矢理上げさせたくなっちまうなァ。」
そう言ってラグナは身体を離すと、突然蘭斗の両足を持ちあげた。
「!?」
慣らしもしていないそこは当然固く、およそラグナ自身など入りそうにない。
「きっつそーだなぁ…まァいっか。どうせなら死ぬ程痛ェ方が叫び声聴けそうだしなァ。」
「な…っ!?」
「ひゃっひゃ、イイ声で鳴けよォ?」
ぶんぶんと首を振っても掴む手は力が緩まない。がっちり掴まれていて振りほどけもしないだろう。
蘭斗は何か諦めたように目を細めると、シーツを握りしめてぎゅっと目を瞑る。

「…なーんてな。」
皺の寄った眉間に、軽いキス。

「…え。」
覚悟していた痛みはなく。気づけば足も解放されている。ぱちっと目を開けたらすぐそばでにぃやりラグナが笑っていた。
「んな顔すんなっての。冗談だよ冗談。そこまで趣味悪かねーよ。」
もう一度唇に。触れるだけのキスを。

「好きなヤツの悲鳴聞く趣味はねーっての。」

そいつは殺る時のお楽しみってな。と冗談か本気かわからない台詞を添えて。
ぱちくりとまばたく赤い瞳。
しばし固まって、何かを言いかけた唇を、引き結んで。
シーツを握っていた手を離し…きゅっと、ラグナを掴んだ。
「ん?」
今度はラグナがきょとんとする。
蘭斗は両手をラグナに伸ばすものの、抱きしめはせず、服をぎゅっと掴むにとどまった。
変化に気づいたラグナが驚いた顔で耳を赤くする。

「…来たいなら…。」
ぷいと目を逸らした蘭斗は、真っ赤。
「……好きにしろ。」




北風太陽


(そうやってお前は、人の城壁を崩しやがって。)

fin
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