「お待たせしました、宇治金時デラックススペシャルジャンボパフェでございます。」

ごとんと鈍い音を立ててバケツサイズの塊がテーブルに乗った。一気に視界が塞がれたが、その向こうでぱああと花が咲いた気配は嫌でもわかる。
しかしなんだこれ…。唖然としたルワーレは溜息をついた。
「…休日にデートに誘った理由はこれですか…。」
「うわあすごい初めて見た美味しそう…!」
「そもそも茶房でしょう此処、何故こんなメニューが…」
「それじゃごちそうになりますね。いただきまーす!」
「いやちょっと待ちなさいいつ私が奢ると!」
お天気快晴、ゴールデンなウィーク。絶好のデート日和。
のはずが、気づけば甘味食い倒れ旅と化していた。

『抹茶の美味しいカフェが出来たんですよ。今度の休みに行きませんか?』
「なんて貴方が誘うから来ましたのに…嗚呼酷い私は財布代わりだったんですね使い捨てだったんですね。」
「うん?捨てないですよ?先生を捨てるなんてありえないじゃないですかー。」
はぐはぐとバニラアイスの山を頬張りながらリヒルトは言う。
「ゼミ困っちゃうし。」
少しでも期待したルワーレが馬鹿だった。
「…いえ、そういう意味ではなく…ああもういいです。」
「先生もいりますー?」
「結構です。見てるだけでお腹いっぱいです。」
「食べてないのに?そっかー、先生って不思議だなー。」
誰かなんとかしてくれこの電波。あまりの意思疎通できなさに頭痛がした。
程なくしてルワーレが頼んだ抹茶も運ばれてきた。一緒に伝票も置かれていく。
おそるおそる伝票を見た。普段そういうセコい真似はしない主義なのだけれど。
しめて、4960円。…眩暈がした。
「んーおいしい!来た甲斐あったー!」
「…それは…よかったですね…。」
心底幸せそうに頬張っているのは抹茶アイスの部分。そういえばさっきはパフェで隠れていた顔が見えるようになっている。…それだけパフェの山が消えている、ということだ。
「ホントうまいなー、ミズハ達も連れてくればよかったなーv」
「そうですよ、ミス研の連中と食べにくればよかったじゃないですか、割り勘して。そうすれば学生でも払える値段でしょう?」
「割り勘?なんで?このパフェ一人分だろ?」
このパフェを一人分なんて言うのは世界中で貴方ぐらいです。
と言いたかったけど、堪えた。
シリアルの土台にスポンジケーキがしきつめられ、純白なバニラアイスの山が圧倒的な存在感で君臨する。さらにそのサイドに抹茶アイス、ほうじ茶アイス、こしあんの塊が控え、ふんだんにかけられた黒みつが艶やかに光る…低く見積もっても5人前はありそうなパフェだ。
「…美味しいんですか、それ。」
あんまり美味しそうに食べているから思わず気になった。
「あ、やっぱり先生も食べます?」
「ええまぁ、気になるので。一口だけ頂きますよ。」
と言っても、スプーンがないのだけど。店員に一つ頼もうかと考えていたら、目の前に白い塊がつきだされた。
「はいどうぞ。あーん。」
ざわっと周囲がどよめいた気配がした。いや、ちょ、待とうかリヒルト・シュテンバーグ。
「…あの、あのちょ、リヒルト…。」
「あれ?いらないのか?」
「いやいりますけどね…その少しは周囲の目を、」
「うわわ先生溶ける溶けるっ!」
目の前には今にも滴りそうなバニラアイス。慌てたルワーレは思わずぱくっと食べてしまって後悔する。…あああやってしまったああああ。
自己嫌悪に肩を落とすルワーレにも気づかず、リヒルトは満足そうににっこり微笑んだ。
「美味しいですよねー、このパフェ。」
…悪意のない人間ほど厄介なものはない。

「…いえ別に私は実際同性愛者ですしそう思われても構いませんけどなんというか公衆の面前でいちゃつくようなマナーの悪さが不快というか私に主導権があればいいんですけどこの状況はどうにも」
「何ぶつぶつ言ってるんですか?あ、まだほしいならどうぞ。」
「 結 構 で す よ 。 」
未練たらしいルワーレの呟きは粉砕された。
落としていた視線を前に戻すと、なんと器がほぼ空になっていた。残るは水のようにとけたわずかなアイスと、それに浸ったシリアル部分。…本当に食べたのか、この男。
「…本当に完食しちゃいましたね…。」
「そりゃ頼んだんですから。残さず食べなきゃ食べ物に悪いです。」
「それはそうですけど。そろそろ胃がきつかったりしないんですか?」
「うーん、きつくはないかなー…あとケーキ2、3個でおなかいっぱい、って感じ。」
2、3個ってホールでのカウントじゃあるまいな。あながち外れてない予想にルワーレはげんなりする。末期的な甘党だ…。
「…私には信じられない量です…。」
「え、そ、そうかな。なんか、甘いものっていくら食べても幸せだから…。」
突然、前触れなくルワーレと目を合わせると、リヒルトは笑った。
「今日一緒に来てくれてありがとうございます。すっごく、嬉しかったです。」
練乳だって顔負けの、蕩けそうに甘い笑顔。
…この笑顔のためならいいか、なんて思っちゃうあたり自分も末期。ルワーレは思わず苦笑した。
「…いいえ、こちらこそ。」
「はい、ごちそうさまでしたー。」
「やっぱり私が奢るんですか!?」



いーとりでい


こんな時に限って上目づかいとかズルいと思う。

fin.