「リヒ先輩ッッッ!!!」

ミステリー研究会のドアが、ばぁんッ!と開け放たれた。
現れたのは右目の医療用眼帯が目立つぼさぼさ頭の青年。靴を脱いでつかつか歩み寄ると、その先にいるリヒルトがきょとんと見上げた。
「ん?茂どうしたんだ?さっきぶりだなー。」
「アンタねぇどうしたもこうしたもあるか!これ!」
茂と呼ばれた青年が勢いよく突きつけたのは、リヒルトのショルダーバッグだった。
「教室にそのままぽーんと忘れてったでしょ!」
「あ、ホントだ。うわーありがとう茂!助かったよ!」
「助かったよ、じゃなーい!!これで何度目だ!アンタの忘れもの何度目だ!普通こんなでっかい鞄忘れたりする!?」
「う、わ、忘れ物はするけどちゃんと後から回収はしてるんだけどな…。」
「それを日常にするなっ!あのね、中身盗られても俺知らないよ?」
言われてはっとしたようにリヒルトが青ざめる。
慌ててがさがさ鞄を漁り、すぐほっとした表情を見せた。
「よかった…!師匠の本盗まれてなかったぁー。」
「そこかよ!?誰も盗らないよ!!」
「えっいやっ盗られるだろこの本面白いし!結構高いし!」
「……だからさぁ、もっと財布とか定期とかDSとか、金目のものとかさぁ…。」
段々虚しくなってきて茂は壁にうなだれた。常識を、誰かこの男に常識を植えつけてやってください…。
そこでリヒルトが、あ、と声を上げる。ひきつり笑いで振り向くリヒルトと疲れ切った茂の目が合う。
「す、すまん茂、机の中に教科書忘れてきちゃった…さっきの座席覚えてるか…?」
ぶっちん。茂の中で何かキレた気がした。
「〜〜〜〜付き合やいいんでしょ付き合や!!アンタって人はほんとにほんとにもう!!」
「悪い茂ほんと悪かったって茂っ!でもホント助かるよありがとう…!」
「やかましいわっ!これで最後だからねこれ以上物なくしても俺知らないからね!?」
既に何度も叫ばれた『最後だからね』が、廊下に騒がしくこだまする。



ひよこ小屋の話係


fin.