「げ。」
「あ。」
朝早い、サザナミタウンの波打ち際で思いきりしかめつらをする男女。片方は刀の素ぶりをしていたダイケンキ、フタギ。もう片方は走り込みをしていたゼブライカ、エクレア。
なんて朝だ、とお互い同時に思った。先に硬直の解けたフタギが息を吐く。
「君か…朝からこんなところで何をしているんだ。君の仲間をこの辺で見かけた報告はなかったぞ。」
「………。」
エクレアは一言も返さぬまま、ひとっ飛びで後ろへ飛んだ。靴が浜辺に着きかけた瞬間、辺り一帯の波が青白く光って爆ぜる。
真っ直ぐフタギへと跳躍。
全身に火花を纏った『スパーク』を、面くらいながらもフタギはなんとか刀で受けた。
「っちょ、ちょっと待った待った!!いきなり何をするんだ!!」
「…あ?テメェこそ何言ってやがる。」
受けられた刀を思いきり蹴飛ばし、エクレアは再び距離を取った。思わずフタギはよろめくが隙のない構えは崩さない。
崩れねぇか。ちっと舌打ちするとエクレアはいっそう火花を散らした。
「目が合ったら問答無用でバトル…常識だろうが、よッ!」
再び一直線に跳躍して、『スパーク』。慌てて『アクアジェット』で飛んだフタギはすんでのところで回避した。『スパーク』『スパーク』『スパーク』、その度に『アクアジェット』回避だ。
「ッテメェ!!真面目に戦いやがれ!!」
「っうるさいこっちにも事情がだな!そもそも君のチームは相性の悪い相手をボコるほど野蛮なのか!?」
「当然だろうがボケ!うちのチームは勝てる属性を割り当てんのが決まりだッ!」
「なんだそれっ、結局属性頼みの弱小チームじゃないか!」
ぶちんっ。
派手に血管を散らしたエクレアは、ざっと砂浜に着地する。
「上等だタコ野郎…。」
両靴のエネルギー炉が轟と燃える。かっと光った瞬間、エクレアを包む火花が炎に変わった。
「…死にさらせやぁアッッ!!!」
『ニトロチャージ』。だんっと激しく地を蹴ると、炎を纏いながら飛び蹴りをかました。さすがに速すぎて避けきれず、フタギはまたも刀で受けざるをえなくなる。
属性不一致の炎技だ。さほどの痛手はない、が。
いよいよたまらなくなってフタギは叫んだ。

「ッだから!若い女性がその格好で飛び蹴りだ体当たりだするのは勘弁してくれないか!?」

へ?
しばらくエクレアはフタギの言葉の意味がわからなかった。
刀で受けているフタギの視点からだと、ショートパンツから剥きだされた太ももと、ボタンの焼き切れたベストのせいで露わになった胴と下乳がまとめて見えるということに気がついたのは、刀から足が離れた頃。
「ッ!!」
ごッ。金属製の靴がフタギの頭を吹っ飛ばした。
「テメェはどこ見てやがるんだ軟派野郎がそれでも男か!!」
「痛ったいな男だからこそ見てはならないのに君が見せるんだろうが!!そっちこそ異性への振る舞いは気をつけてくれないか!?」
「るっせぇなタイマン中にうぜぇこと言ってんじゃねぇよ糞ったれ!!見えたぐらいでガタガタ言うな!!」
「どっちだよ!!君の意見はどっちだよ!!」
とにかくっ!とフタギは鋭く言うと、一瞬ためらった後ベストに手を伸ばした。硬直するエクレアに構わず、ベストの合わせ目をきちんと直す。焼き切れた箇所は手早く結んだ。
「袂ぐらいちゃんと守っておけ。そもそも肌を見せすぎなんだ、若い女性だというのに。」
本当にもうだらしがない。そう言いながらも何故か首が熱い。大丈夫、見てはいない、見ていないんだから何を熱くなる必要がある。言い聞かせながらちらりとエクレアを伺う。わなわな震えるエクレアの頬が心なしか赤かった。
「ッッ触んじゃねぇえええええええええ!!!!」
いよいよメガネが割れて吹っ飛んだ。同じ軌道で飛んでったフタギを見据えた後、ぐるっとエクレアは踵を返した。
「…帰る。」
数歩歩いて、びたっと止まって、ちらっと振り向くとエクレアはがなった。
「次は『ほうでん』喰らわすから、正々堂々勝負しやがれ!」
それだけ言うと、風のようにエクレアは突っ走っていった。





イナマイト・ニー


(…恥じらいがあるのかないのかどっちだよ…。)

fin.