※まだミズハが戻ってきていない頃。
※何故かリザードン仕様ですけど。



肩に乗せられた冷たさが、弾力を伝えながら小さく蠢いた。
やがて溢れて滴ったそれは、露な首筋を、鎖骨を、胸元を、ゆっくりと吸いつくように撫でていく。
ゼリーのようなそれは火照った肌から熱を奪い、冷たすぎない冷たさを確実に与えていく。
その度に青年は、何かを堪えるように喉を鳴らした。
「くす…どーぉ?キモチイイ?」
「…ッいいから…黙って冷やしてろ。」
「はぁーいv」
甲高い少年のような声は、紫の髪を持つ青年から。
年相応に低い青年の声は、橙の髪を持つ青年から。
色が違うだけで瓜二つ、ということに気づくのが遅れるくらい、二人の雰囲気は違いすぎていて。
そして紫の青年の腕から先は、先程から滴るゼリー状の液体と化していた。
「くすくすっ、ヒカト今日へんなのぉ…自分からオネダリするなんて。」
紫色、アノニマスは奇妙な音でくすくす笑う。
「ッ…は、悪いかよ…。」
橙色、ヒカトはどこか虚ろで暗い目でぎこちなく笑った。
ゼリーを浴びていない右腕をゆっくり伸ばし、ヒカトはアノニマスの胸倉をつかむ。ぐいとひきよせて、その唇に噛みついた。
引き寄せた拍子にごろりと床から音がする。それは転がる酒瓶がたてた音だった。押されて転がった酒瓶が、別の酒瓶にぶつかり音をたてる。
瓶は、床一杯に広がっていた。
アノニマスは、人間の飲むものなど飲みはしない。
「…なんのマネぇ?」
「わかんないのかよ、低脳。」
「くすくすくす…今日の女王様は随分ゴキゲンナナメ。」
ごぼり、アノニマスの腕から聞こえる不穏な音。
まだ人間らしい形を保っていた左腕がどろりと溶けて滴り落ちた。びゅるんと気味悪い音でしなやかに伸び、投げだされた白い足をぐるぐると包囲する。やがて。
その中心を、導き出して。
ヒカトの背が反り、その目が見開かれた。
「ッあ…!」
甘くかすれた叫びが、一瞬で紫に白を混ぜた。
反らされた背は、骨を失くしたようにぐったりと崩れ落ちた。
「…熱、い…。」
あがった息が荒い。落ちた首をヒカトは無理に上げようとする。汗ですべった眼鏡が、からんと落ちた。
瞬間、ばさっと弾けるように現れる橙の羽根。
けれどそんなことすらどうでもいいヒカトは、中毒のように震える腕を伸ばした。
「熱い…ねぇ、冷やしてよ…。」
「またぁ?今日何回目ぇ?」
「うるさい、いいから…いいから…ッ」
投げ出された足はびくびくと不穏な痙攣をしており、瞳は気を失う一歩手前だった。
限界であることはヒカトが一番よくわかっているはずなのに、何故か腕を伸ばすのをやめようとしない。
そんなヒカトを見つめて、アノニマスはゆっくりと微笑む。
そしてなにげなく、こう言った。

「…"ミズハ"が見たら、どう思うんダロウネ。」

がしゃあああんッ!!
投げつけられた酒瓶が壁に当たって砕け散った。アノニマスが避けなくても当たらないくらい、見当違いな方向で。
「…うるさい…。」
狂った竜が吠えるような、泣きそうな子どもが吠えるような、そんな声でヒカトは。
「うるさいっ…うるさいうるさい五月蠅い…ッッ!!」

いくら酒に溺れても
いくら欲に溺れても
いくら力に溺れても
いくら今に溺れても
ねぇ、   。
最後に滴ったのは、透明な液体。




メ ラ ン コ リ ッ ク


嫌われたくないと、想えば想う程。


fin.




***

荒れてるなぁ…今読み返すと…。こんな荒れてる設定だったのか。