The Road leading to faraway Dreams 第2章
エミル・クロニクル・オンライン ショートストーリー     The Road leading to faraway Dreams   −まだ見ぬ夢に続く道−

第2章   不朽の盟友



 アヤナが向かった先、加入しているリングのマスターでもある霧羽・ライザーグのいる飛空庭―――
 そこは、暇があるときにギルド元宮の手前で停泊していることの多い霧羽の飛空庭のことだった。
 つまりこの場所に庭が停泊しているということは、特に用事もなく気軽に相談に応じることが出来るということだ。
 霧羽は、故郷のタイタニア世界では少しばかりその名を知られた一族の中で育ったと言うが、それを全く感じさせない気軽さ、話のしやすさがそこにはある。
 駆け出しのシャーマンだった頃に一人のカバリストに出会うまでは親しい友人や仲間さえいなかったアヤナにとって、何でも躊躇なく相談できる貴重な相手だった。
「霧羽、いる?」
 庭に上がったアヤナは、その中にある家の中を覗き込む。
「あ、こんにちは〜」
 アヤナの声に振り返った霧羽は、モモンガのアツカムイに餌を与えていた手を止めて振り返った。
 霧羽はエミル世界に降り立って初めて知り合った相手でもあるアヤナの方向を向くと、不思議そうにその表情を見つめる。
「どうかした? なにか困ったことでもあったの?」
「うん…ちょっと相談したいことがあって」
「今は特別何もすることはないし、別に何でも構わないよ」
 何を考えているのか全て見透かされていたかのように言葉を濁すと、霧羽はにっこりと微笑んで言った。
「ありがと…霧羽はドミニオン世界には何度か行ってるよね?」
「うん、定期的にウエストフォートを攻めてくるDEMと戦う攻防戦に行ってるよ」
「そのことなんだけど…私、今最高レベルの武器を手に入れに行こうとしてて、そのために必要なものをいろいろと調べているんだけど、」
「うん」
「そうしたら、真希ちゃんとケールさんのお話だとドミニオン世界にあるという古の武器をまず手に入れる必要があるらしいの」
「そうだったんだ…」
「でも、知っての通り私にはどうしてもドミニオン世界には行けないから…霧羽にお願いできないかな、って思って」
「そっかあ〜…確かにドミニオン世界に行く必要があるんじゃ、アヤナにはどうしてもムリだよね。それじゃ、私が代わりに行ってくるよ」
「別にどうしても、ってワケじゃないんだけど…本当にいいの?」
「その古の武器っていうのは、ウエストフォートに行けばあるんだよね? そのくらいなら全然構わないよ」
 霧羽はそう言うと、出かける準備を始めた。
 アヤナにとっては何でも気軽に相談できる貴重な相手だが、霧羽にとってもアヤナはエミル世界に降り立って知り合った初めての相手であり、やはり大切な存在だった。
「いつも厄介ごとを背負わせてしまうようだけど…ごめんね」
「別に気にすることないって。 攻防戦で役立つためにも、もう少しレベルを上げておかなくちゃいけないし」
 浮かない表情で頭の上がらないアヤナに、霧羽は楽器を入れているケースから木製ハープを取り出すと明るく言った。
「ちょうどミントさんもすることがないみたいだし、一緒に行って手に入れてくるよ〜」
 霧羽は着ている夜宴の陣羽織の裾に乱れがないか確かめると、そのまま庭を後にした。



「わざわざ付き合ってくれてありがとうね〜」
「ううん、私も少しレベルを上げに狩りに行こうと思ってたところだし」
 霧羽は、誘いに気軽に応じてくれたミントに改めて感謝する。
「武神とパートナーって、話はいろいろ聞いてるけど難関が結構立ちはだかってるらしいよw」
「そうみたいだね〜…でも千里の道も一歩から、って言うくらいだし何事もまず始めなくちゃ」
 天まで続く塔のある島から飛空庭で軍艦島に渡ると、そこから今度はドミニオン女傭兵のもとに向かう。
「ウエストフォートに行きたいのかい? 燃料代の一人頭860ゴールドを払うなら便乗させてやるよ」
 霧羽とミントが代金を支払うと、女傭兵は大きなバイクを派手にふかし始めた。
「ほら、早くしな! 振り落とされても文句はなしだよ!」
 二人はタイタニアの自分たちなら大丈夫のはず…と思いつつも女傭兵につかまる。
 そしてそんな二人をよそにバイクはドリフトのように旋回すると、文字通り飛ぶかのように前輪を高く持ち上げてスピードを上げた。

 そして降り着いた先、ウエストフォート―――
 ここはアクロポリスがDEMの支配下に落ちた後のドミニオン族たちにとって、文字通り最後の希望の砦である。
 DEMに徹底抗戦を続けるレジスタンスはもとより、命からがら戦災をくぐり抜けて避難してきた者たちも集まり、いつどこで戦いが始まってもおかしくない張り詰めた空気の中でも賑やかさを保ち続けてきた。
「それで…確か、古の武器は羅城門にいるドガって仕入れ屋の人が持ってるんだっけ?」
「そだよw」
 入口からウエストフォートに入った霧羽とミントは、DEMに対する抵抗の象徴のような城塞の先にある羅城門に向かっていた。
「あの人ってしゃべり方がちょっとヘンだけど、決して悪い人じゃないんだよね」
「あれで悪い人だったら最悪かも…そういえばパートナーになる最高レベルの武器って、具体的にどういうものなんだろう…?」
 まだテリアを連れたケールの話を聞いたのみで、二人が共に戦う場面など想像もつかない霧羽にとっては全てが未知の世界だった。
「私もまだあまり多く見てきたわけじゃないけど、パートナーはもともと『武神』って呼ばれるくらいだしね〜」
「それじゃ、もしかして前に応募して行ったパーティでスカウトクローを使う眼帯の男の子も武神って呼ばれるの?」
「おぉぉ〜・・・それってキーノくんかな? 私はまだ戦ってるところを見たことがないから詳しいことを知らないけどね」
「でも、つい最近まで何も知らなかった私よりもずっと詳しいし…戦ってるとき以外も何かあるの?」
 様々なパートナーを連れた冒険者とパーティを組んで戦ったことのあるミントは、霧羽に戦っているときと普段のパートナーの違いを話す。
「武神って呼び方からすると、戦う能力に意識が向きがちだけど…戦いに疲れたときの話し相手とか相談相手になってもらったりしてる人もいるみたいだよ〜」
「相談相手?」
「例えば、身近なところだと今日着る服はどれがいいかとか、好きな人に何をプレゼントしたら喜ばれるかとか…ずっと庭で家事のことばかりしてもらってるせいで『うちの旦那は専業主夫』とか言ってる人もいたりww」
 最後のは和風の服に小さなメガネをかけたパートナーの人自身もそう言ってたよ、と付け加えて笑い出した。

 ウエストフォートの奥にある最前線基地、羅城門。
 DEMがこの街に侵攻してきた際には、生活基盤でもある都市機能の最終防衛線になるとともにこの場所へ誘いこんで戦場とすることで、敵をこの一ヶ所に集中させて攻撃目標が他の都市機能に向くのを防止する役割を持つ。
 ここは現在もDEMとの攻防が繰り返される紛れもない“戦場”であり、そこから醸し出される空気は一人ひとりの「生命」が飛び交う殺伐の言葉にふさわしいものだ。
「あ、あそこにいる商人風のドミニオンじゃない?」
「え? どこ?」
 戦いが繰り広げられているときには狭く見える羅城門も、平時には探し求めるドガがどこにいるのかも分からないほどに広大だったことに霧羽は驚きを隠せなかった。
 ミントが指し示す方向を見ると、確かに鍛え抜かれた肉体の男が全身に鎧をまとった戦士と共に立っている。
「あの、仕入れ屋のドガさんですよね?」
 霧羽は全身鎧の戦士の隣にいる男に近づくと、少し遠慮がちに声をかける。
「……あらあら! 久しぶり〜、元気そうね? うふふ……。 今日はアタシに会いに来てくれたのン……?」
「・・・・・・・・・」
 ドガの奇矯な口調にこの場所へ来た目的が消し飛びそうになり、次の言葉が出ない霧羽の代わりにミントが用件を話す。
「私たちは今、古の武器というものを探してるんです。それで、ドガさんがその武器を持っていると聞いて譲ってもらえないかと思って」
 ミントの口から出た古の武器、という言葉にドガと鎧の戦士はハッとしたような表情で二人を見る。
「古の武器…と呼ばれているものなら、確かにドガが最近仕入れた物の中にある。 だがそれをお前たちはどうするつもりだ?」
 霧羽とミントの全身を上から下まで食い入るように見つめた戦士は、訝しがるように言った。
「お前たち、F(ファイター=戦士)ではないな? 見たところSU(スペルユーザ=魔術師)のようだが…その武器は誰彼構わずくれてやれるようなものではないぞ」
「私たちがどうしても必要としているものなんです…そこをどうにかならないでしょうか?」
「まあ、赤の他人ならともかく顔見知りのあなたたちだものねェ。 …だけど、これらは掘り出し物の中でも特に貴重なものでねぇ〜そう易々と譲れるような代物ではないのよン♪」
「それじゃ、せめて見せてもらえるだけでも見せてもらえませんか?」
 貴重なものであることを強調するドガに、ミントは直接見られるだけでもいいのでと頼み込む。
「見せるくらいなら構わないけど…持ってくるまでちょっと待っててねぇン♪」
 ドガはそう言うと、立っていた壁に開いている倉庫らしき入口に入っていった。
「見せることもできないって言われたらどうしようって思ったけど、とりあえずどんな物なのかだけでも確認できそうでよかったね」
「うん…でも、ほかに手に入れる方法があればいいんだけど」
 ドガが立ち去った羅城門で、二人は待つ間もこれからどうすべきか話し合っていた。
「やっぱり、私じゃ古の武器を持つ資格がないくらい未熟ってことなのかな…」
「先程も言っていたが…詳しく話を聞かせてもらおう」
 その時、ドガと共にいた鎧の戦士が霧羽に歩み寄る。
「私も最近知ったんですが、最高レベルの人だけが使うことのできる武器があるそうなんです。その武器は、ただ戦うための武器なのではなくて使い手のそばにいつもいる、パートナーになってくれるとも聞いていて…」
「その武器をパートナーとするために…か?」
「はい、正確には私の親しい友人なんですが…」
「そうか。 …お前たちも知っての通り、我々ドミニオン族は日々戦いの中に生きる種族だ。
 戦うことが常に身近にある者にとって、武器とは単なる攻撃の手段ではない。
 一人の戦士が持つ武器とは、戦いの辛酸を常に分かち合ってきた、文字通り移し身とも言える相棒であり戦友でもある。
 お前たち戦士でない者には同じように見える剣であっても、一振り一振りが異なる個性を持ち、それぞれが戦士たち一人ひとりにとって唯一無二のパートナーなのだ」
 鎧の戦士が言う言葉は、霧羽とミントに重く響くものだった。
 二人はその手に持っているものを見て、普段から使っているこの竪琴のことを考えた。
 ―――竪琴というのは、バードの魔法と共に奏でるその特性から言っても弦の些細な緩みにも気を使う必要があったり、使い手個人に合わせた特別仕様であることも多い、けど・・・
 …正直言って、Fの人たちが使ってる武器はその種類やレベルにさえ合っていれば、それ以上のことはあまり気にせず使っていると思ってた…。
 Fの人たちの剣も槍も、みんな私たちの楽器と同じ大切な仲間なんだよね…今まですごく失礼なことを考えてたんだ―――
 この時、霧羽はアップタウンでくつろぐケールの姿を思い出す。
 霧羽や真希杏たちと何気ない雑談をしているときも、ケールはよく愛用のエンジェルハイロゥの銃身を丁寧に手入れしていた。
 その姿を思い浮かべるにつけ、霧羽はこれまでパーティを共に組んできたFの人々に対して内心で何度も謝った。

「待たせたわねェ〜これが最近仕入れた古の武器よ」
 そう言ってドガが持ってきたのは、いにしえという呼び名に違わぬ古い剣と槍だった。
 これらは所々が錆びて朽ちているように見える部分もあり、SUである霧羽たちが見ても直接実戦の用に足るとは到底思えない。
 だが…ただの朽ちた古びた武器とは、全く異なるものであることはすぐに分かる。
「うわぁ…これは想像してた以上のものだわぁ〜」
 実物を前に、ミントは思わず驚嘆の声を上げる。
 その存在感、威圧感、資格なき者が持つことを拒否するかのような纏う空気の重厚感…それらは直接目に見えそうなほど強烈で、気を確かに持っていないと気圧されそうなほどのものがある。
「そこの戦士ちゃんもよく言ってるけどォ〜、ドミニオン族にとって戦うための武器っていうのはただ戦うための手段なんて存在を超えた特別な存在なのよ。
 これが欲しいならそれに見合う、相当するだけの理由がないとね♪」
 古の剣と槍をじっと見つめていた霧羽が、手ぶらで帰る訳にも行かず思い悩んでいた―――その時。
「重傷だ! 急いで救護室に運べ!!」
「リザレクションポーションが大量に必要だぞ! 至急30個持ってこい!」
 行き交う戦士の数も少なく、一時の平穏を保っていた羅城門の平穏は緊迫した兵士たちの叫び声によって突如破られた。
「敵襲か!? 侵攻方向はどっちだ!」
 慌ただしく動き回る兵士たちに、羅城門の奥で様子を見守っていたリーダーらしき男が声を上げる。
「郊外の南東地区で中規模の戦闘があった模様です! 敵はパープルガスを大量に散布しており、負傷兵の搬出もままなりませんっ!」
「力押しでは埒が明かないと奇手に出たか…毒消しの実とマルチコンディションはどのくらいあるんだ?」
「レジスタンスですぐに投入できる数は…およそ70回分が限度かと…」
「物量と補給では奴らが圧倒的なのは、今に始まったことではないが…クソッ!」
「リーダー! 敵の数は少数ながらパープルガスの煙幕とゲヴェーアの散弾で接近を拒みつつ確実に市街へ進行しています!」
 こうしている間にも、羅城門には負傷したドミニオンの兵士たちが次々と運び込まれてくる。
 門の先の部屋に割り当てられている救護室はすぐに埋まり、運ばれてくる兵士たちは羅城門の通路で次々と横たえられていた。
「お前たちは非戦闘要員か!? 戦士以外の者はすぐに上のシェルターに避難しろ!」
「…!?」
 兵士の一人から投げかけられた言葉に、霧羽はハッと我に返る。
 私は、今ここで何をしているんだろう?
 ここに横たわっている沢山の人たちは、なぜこんなに運び込まれて苦しんでいるんだろう…?
 定期的に現れるDEMを撃退するため、この場所へ来たときにいつもやっている自分の役割って…?
 私は誰…?  タイタニア第173氏族のドルイド、霧羽・ライザーグ…
 ドルイドがこういう場所でとるべき行動と言ったら…
 霧羽は意を決し、負傷した兵士たちのいる方向へと向かう。
「……祝福あれ、光の精霊ミマスの恵みと共に我らに祝福あれ…汝の慈愛、世界に遍き光もて久遠の癒しとならん…、……」
 傷つき、苦しみにうめき声を上げる兵士たちもいる羅城門で霧羽は竪琴を構えると、オラトリオの謡唱を始めた。
「闇を挫けし者、誇り高き精霊ミマスよ! 我が請い願わん、其は朋の瑕疵を以て猶ほ諌めんが為…而して誓う、己が全てを癒す祝福を受けし光の翼とならんことをっ!…」
 霧羽と合わせるようにして、ミントもまた兵士たちにホーリーフェザーをかけ始めた。
 そして互いに竪琴を奏で、二人で手分けして一人ひとりにアレスを詠唱してパープルガスの毒に苦しむ兵士を回復させていく。
「うう…すまない…」
「君たちがやってくれたのか……タイタニア族も捨てたものではないのだな…」
 二人は、ひたすら兵士たちの負傷の回復に当たった。
「・・・・・・・・・」
 その様子を見ていたリーダーとドガが、二人に歩み寄ってその肩をつかむ。
「今のお前たちを見て分かった。 二人とも、DEMが定期的に侵攻してくるときに攻防戦へ加わっているレジスタンスの一員だろう?」
 霧羽とミントは驚いた表情を浮かべて互いを見合うと、戸惑いながらも軽く頷く。
 リーダーは二人の顔を正面からまっすぐに見ると、改めて向き直って言った。
「レジスタンス活動を続けるために最も必要なもの…それは戦力だ。 だが…ただ強い者が数多く集まっているだけでは一騎当千も烏合の衆と化す。
 お前たちドルイドの後方支援があってこそ、初めて戦士たちは強固な軍団となって奴らに反転攻勢することができるのだ…心から礼を言う」
 そう言って、リーダーは頭を下げた。
「本当のことを言うとな、俺個人はタイタニアの者たちを好まない…この世界がDEMの侵攻を受けたとき、被害が波及することを恐れて世界のつながりを断絶したのはお前らタイタニア族だ。
 兵士の一人をエミルの世界に派遣し、種族の壁を超えて志ある者たちを目にするまでは自分たちの世界さえ守られればいいと思い上がっている奴らばかりだと思っていた…
 だが、それも少しは考えを改めるべきなのかもな…今回は特別にお前たちを信頼する」
「そんな…私たちはドルイドの使命として、果たすべき役割を行っただけだから」
「ミントさんの言う通りですよ。 ウァテスは初めに光の精霊の下で別け隔てなく、全ての人へ無償の癒し手になることを誓わなくてはなりませんしね」
「……うおおおおおッ!! 感心のあまり前後不覚になりそうだわッ! よその世界の危機に危険を冒して戦いへ身を投じる、なかなかいい心構えを持ったタイタニア族もいるものなのネ……決めたわ♪」
 ドガはそう言うと、わずかにリーダーに視線を向ける。
 ドガの熱い視線(?)を向けられたリーダーは、視線を外すように一瞬しかめたように見えた顔を上げ直すと、軽く頷いた。
「古の武器。 あなたたちには受け取る権利があるわ…剣と槍の両方という訳には行かないけど、さぁ気になった方を選んで」
 そう言って、ドガは古の剣と槍を床に置く。
「う〜ん…」
「何にするのか決めてあるの?」
 思い悩んでいた霧羽は一緒に二つの武器を見比べていたミントの言葉を聞いて、アヤナが言っていたことを思い出す。

『エミィさんから聞いた限りだと…古の武器っていうのは全体の呼び名であって、剣とか弓とか斧とか種類がいくつもあるらしいよ?』
『…そうなの? それじゃ・・古の槍っていうのはあるのかなぁ?』
『あるって聞いてるよ。 でも、アヤナはエレメンタラーなのにどうして接点のない槍なの?』
『それは………この前、天まで続く塔で…』
『? 塔でナイトさんの槍と何か関係することとかあった?』
『う、ううん…とにかく、もし槍が手に入るようだったら槍をお願いしたくて』
『まあいいけどね〜。 それじゃ、古の槍でいいんだよね?』
『うん』

 ―――アヤナは槍にこだわってたみたいだけど…これで無事に持って行けそうでよかった〜…
「それじゃ、槍の方をお願いします」
「はぁい♪ …じゃ、またいつでも来てちょうだいねェ〜…ずっと待ってるわよぉン♪」
「・・・・・・・・・」
 最後まで奇矯な口調が変わることのないドガに、霧羽は口にする言葉を失いつつドガに頭を下げる。
「そうだ、ちょっと待つがいい」
 羅城門を後にしようとした霧羽を、ドガと共にいた鎧の戦士が呼び止めた。
「お前らが最初に言っていた最高レベルの武器のことだが…『神の授けた武器は、エミルドラゴンが創造主となって創造した』ものだと、共に戦ったエミルの戦士から聞いたことがある。
 この武器のことはエミルドラゴンが関係しているのかも知れない」
「そうでしたか…貴重な情報、ありがとうございます」
「このソウルゲイザーもエミルドラゴンと戦って受け取った竜玉が必要だったよね? もしかしたら、ソウルゲイザー以外の武器もエミルドラゴンが関わってるんじゃない?」
「あ…」
 ミントが言う通り、二人が持つ楽器の一つ真絃・ソウルゲイザーはくじら岩と呼ばれるダンジョンの最奥部、終淵にいるエミルドラゴンと戦った後に報酬だ、と自らくれた竜玉が必要な素材の一つだった。
 この楽器で奏でられた音楽は聴く者の精神を超え、魂の根源にまで影響を与えるほどの力を持つ一方で異常なほどの魔力と集中力が要求されるため、ドミニオン世界では雑音すら出すことができず使うことができない。
 そのため霧羽は天まで続く塔に来る前に飛空庭に置いてくることを習慣にしていた。
「ドミニオン世界に来たらあの楽器じゃ演奏ができないし、そっちの楽器のことをすっかり忘れちゃうのも仕方ないけどねw」
「確かに、今までソウルゲイザーのことしか考えてなかったけど…他の武器もエミルドラゴンの竜玉が使われててもおかしくないもんね」
「うんうん〜」
 アヤナが目指している武神まで、どこまで道のりがあるか分からないけど―――少しづつでも一つひとつこなして、確実に目的の達成を手伝いたい。
 いずれは、私も………ううんそれはまだずっと先の将来のことかも知れない。
 だけど、目標は高く遠く掲げてこそ頑張れるもんね―――霧羽は古の槍を抱きしめ、ミントと話を続けながらアヤナの待つアクロポリスを目指した。



−第3章に続く−