The Road leading to faraway Dreams   −まだ見ぬ夢に続く道−

 ・・・・・・・・・
 いつからだっただろう…?
 リングやパーティで行動しているとき、たびたび耳にするパートナーという言葉を意識するようになったのは、一体いつの頃からだっただろう?
 そもそも、よく言われるパートナーというのはどんな人のことを指して言うのだろう?
 誰もがその“パートナー”と呼ばれる存在を必要としているのだろうか?
 それとも逆に、いなくても生きていけるのが普通なのだろうか?
 答えはきっと、一つではないに違いない。
 でも、みすみす見過ごしてもいい程度の問題のようにはどうしても思えない気がする。
 パーティに入り、リングに属して、そこで狩りに励んだり親しい人たちと毎日他愛もない話をして過ごすのはとても大切なこと。
 だけど、それとは別にパートナーという言葉の持つ本当の意味や重さは、また別の価値を持つように感じるのは一体どうして………?


「マンドラゴラよ、鳥たちを押しつぶせ〜!」
 豪奢なマリオネストの服を着た活発そうな少女の前に巨大なマンドラゴラが姿を現し、ドードーを圧殺していく。
「闇に魅せられし力、魔界の闇よりなお闇深き我がイビルソウルをもって眼前に立ちはだかる全ての愚か者たちに狂乱の宴を示せ…ダークブレイズ!」
 さらに闇帝衣・クロノスアークの男の詠唱に合わせて闇の光を放つ魔法陣が地面を覆いつくし、マンドラゴラから辛くも逃れたドードーをマタンゴの群れともども飲み込んでいく。
 ここはタイタニア世界、忘却の庭園。
 果てしなく長い間、タイタニアの者しか出入りすることもなかったこの地には、数々の名声を収めてきたエミルやドミニオンも含めて数多くの者たちが訪れる修行の場となっていた。
 その時、この二人からわずかに離れた所にいた和風なブラウスと袴の少女は、ミノタウロスの斧が今にも自身に向けられていることに気付いていなかった。
「………えっ!?」
 ふと視界を上に向けた少女は、巨大な重さを伴って落ちてくる刃の先に対してどうすればいいか分からず、思わず目を閉じて身をすくめた。
 ―――カンッ! カキィィィィン!!
 和服の少女を襲った斧は、その見るからに重そうな外見からは想像もつかないような軽く高い音を立て、振り下ろしたミノタウロスはのめり込むような格好で左前方に倒れ込む。
「ソードディレイキャンセル! はぁぁぁ〜っ!!」
 倒れこんだミノタウロスの背後にいた陣羽織の少年がその隙を突き、目にも留まらない速さで斬撃を与えていく。
「ここはアクティブも多いし、ボ〜ッとしていたら命がいくつあっても足りませんよ」
 そう言って、他よりもやや幼さの残るセージローブの少女は、瞬時にソリッドオーラをかけた和服の少女に微笑んだ。
「ごめんなさい…狩りの最中なのに」
「いいんですよ。庭園は火力が大きすぎて困るなんてことはそうありませんしね」
 ―――アースオーラの効果がとっくに切れていることにも気付かないほど、色々と関係ないことを考えすぎてたのかな…こんな場所でそれじゃ、命がいくつあっても足りないって本当だよね…
 和服の少女―――アヤナ・ラディスは履いている草履の鼻緒を締め直すと、手にした巻物のような紙の束の封印を解く。
「炎の精霊ライザの力、劫火をもって全てを焼き尽くせ! ファイアストーム!」
 その手を離れたスクロールからは紅蓮の炎が溢れ出し、モールンを炎で包囲していく。
 四属性の原理を教えてくれたお礼に、と後輩のセージである紫織・バルサード手製のスクロールは自分が詠唱してかける魔法と遜色ないばかりか、時には逆に教えて欲しくなるほど威力を発揮することもある。
 アヤナがまだまだ精進の余地は広いと思っている間にも、どこからともなく湧いて次々と襲ってくる魔物に対してある者は凄まじい速さで剣を唸らせ、ある者は強大な魔法に魔物を闇に沈めていく。


 数時間後―――
「お疲れさん」
「お疲れさまでした〜」
「パーティありがとう、それじゃおつ〜」
「またよろしくお願いしますね。ではパーティを解散させていただきます」
「あーい」
 忘却の庭園での狩りを終え、かつてECOタウンがあった地に戻ってきた彼らは、思い思いの方向へと分散していく。


 自分の一生を賭けてでも苦楽を共にしたいと思えるような相手が、私も必要になるときが来るのかな…そのとき、私はその相手に対してどう対応すればいい…?
 いくら悩んでも仮定と結論はただ循環するばかりで、本当に霧が晴れるような答えは見えてくる見通しがない。
 そう感じたアヤナはこの続きを別の機会に考えることにし、エミル世界に戻って一休みするため天まで続く塔へと向かった。







エミル・クロニクル・オンライン ショートストーリー

The Road leading to faraway Dreams   −まだ見ぬ夢に続く道−










第1章   翼の残光


 タイタニア世界、天まで続く塔。
 天界と呼ばれることもあるタイタニア世界においても、この塔は青く澄み切った空に向かってどこまでもそびえ立っている。
「ふあ…アクロポリスに戻って少し休もうかな…」
 かつて初めて到達した際に、翼を持たないエミルの民ということもあってか見張りのマーメイドたちの対応は冷酷なものだったが、今はほぼ自由に往来を許しているようだ。
 タイタニア世界の入口とも言うべき神聖な島に立つ塔を前に、アヤナは小さく息をついた。
 そして入口に立つと、塔の扉はまるで自動ドアのように大きな音を立ててゆっくりと開き始める。
 広大なエレベータルームのような場所を抜けて、まばゆい光の先にあるエミル世界までは、あともう少し。



 ―――エレベータルームを思わせるその部屋は、いつもどおりだと思っていた。
 周囲を無数のインフェリアドラゴンが舞い、部屋の入口にある操作パネルを動作させればエミル・タイタニア・ドミニオンと三つの世界を往来することができる。
 操作パネルには何か文字のようなものが書かれているが、何が書かれているのかは分からない…でも、原理は分からないけどこのパネルに目的の世界を念じることで、思い通りの世界に行くことが出来る。
 パネルに手をかざし、エミル世界へ……降りよ、と強く思えば部屋は光に包まれ、そこから外に出ればエミル世界のはずだった。
 だが―――この時は少し違っていた。

 ガァァァァーーーーッ!
「えっ…!?」
 最初は、ただインフェリアドラゴンの様子が少しおかしいだけなのかな…と思っていた。
 このドラゴンは攻撃を加えたりしない限り襲ってくることのない、害の少ないドラゴンのはず…
 そう思いながら、後ろを振り向く。
「・・・・・・!!?」
 信じられない光景が、そこに広がっている。
 本来なら手出ししない限り襲ってくることのないドラゴンが、咆哮を上げながら何匹も襲ってくる。
「ファイアウォールっ!!」
 アヤナの前に出現した巨大な炎の壁に阻まれ、ドラゴンたちは立ち往生する。
 その瞬間、思わず見た部屋の奥にはタイタニアドラゴンとは少し様子の違う巨大なドラゴンがいた。
 明らかに様子がおかしい―――違う、そんなレベルはとっくに超えてまるで全く別のドラゴンのような―――
 そこで初めて気付く。
 エミル世界の天まで続く塔の島にいるエリックという人物が言っていた、タイタニアドラゴンとは別のドラゴン。
 話にだけ聞いていた、塔を守護する者よりも更に上位のドラゴンのこと。
 あれはもしかして、あの人が話していたザ・ルーラー・オブ・タイタニアというドラゴンなんじゃ―――?
 行く手を遮っていたファイアウォールが消え、インフェリアドラゴン…というよりルーラーに支配されたスレイブドラゴンが今にも襲い掛かってこようとしたとき、アヤナは思わずルーラーと視線が合ってしまった。

「ファイアウォール…! もう少し持ってっ!」
 スレイブドラゴンがさらに激しく迫る一方で、ふと上を見るとそれまで頭上高くを飛び回っていたルーラーが下へと降下してくるのが見える。
 その羽ばたきだけで吹き飛ばされそうなほどの暴風を伴いながら、ルーラーは次第に降りてこようとしていた。
 どうしよう…どうすればいいの……!?
 想像だにしていなかった事態に、気が動転しているアヤナの姿を完全に認識したルーラーの周囲で、まばゆい光を放つエネルギーのようなものが収束を始める。
 その光景は、ルーラーについて話に聞いた中で覚えがあった。
 アブソリュートテリトリー―――
 その直撃を受けるようなことでもあれば、一撃で事切れる以前に跡形もなく消し飛んでしまってもおかしくない…そんな恐怖がアヤナを襲った。
 羽ばたきの度に起きる暴風に呼応するかのように、ルーラーは荒れ狂う嵐のような咆哮を上げ、―――そしてアブソリュートテリトリーを放った。
「……!!」
 周囲には、自分とドラゴンの群れ以外には誰もいない。
 …もはや諦めるしかない。
 たとえアースオーラ、ウォーターオーラで防御してもあれだけのエネルギーの塊…無事でいられるはずがない。
 ―――まだまだやりたいことはあったけど、残念けど……仕方ないよね…
 リザレクションを受けられる可能性もないことを覚悟し、アヤナは目を閉じた。








 ………
 ………………
 ………………………
 ………………………………

 ―――空気が止まっている。
 ううん違う、もしかして時間さえも止まっている…?
 静寂な空間。
 さっきまで、荒れ狂う嵐の中にいるような場所にいたはずなのに…全てが止まってる?
 恐る恐る目を開いて、上を見上げる。
「…!?」

 そこは、真っ白な世界だった。
 その中に、なにかうっすらと見えるものが…人影?
 そこまで見て、アヤナは自分が直前に置かれていた状況を思い出した。
 遭遇することなどないはずのないルーラーに襲われ、直前まで荒れ狂う嵐の中にいたはずの自分。
 もうどうにもならない、と覚悟を決めたはずなのに…
 猛烈に吹き荒れる暴風が突然、全て止まるというまたも異常な事態に冷静な判断などできないまま、反射的に出口の方向を向くと全力で駆け出した。

 …バフッ!
 その先に何があるのかも分からないまま飛び出したアヤナは、大きく弾力のある何かに当たってようやくわずかに落ち着きを取り戻した。
「えんどう豆の木? それじゃ、もしかして…」
 飛び出した先に当たったのは、エミル世界の天まで続く塔の島ではありふれたえんどう豆の巨大な葉だった。
「何がどうなっているのか全然分からないけど…エミル世界に帰ってくることができたんだ…」
 そこが、本当に自分の生まれ育った故郷の世界なのか半信半疑のまま、アヤナは腰の和風な巾着から飛空庭のキーを捜した。
「もう何でもいいから…一休みしたい…」
 初めて完成したときに飛空庭職人からもらったキーを出すと、庭を呼び出すためのキーを押す。

 数分後、モーグの方向から立ちこめる薄暗い雲の間から―飛空庭は飛んできた。
 飛空庭の姿を確認すると、完全に気の抜けたアヤナは家の中で敷かれている布団に倒れこみ、しばらく動くことが出来なかった。



 ピー…ピー…ピー…ピー…
 家の飛空庭操作パネルが鳴り響く。
「あ……いつも間にか寝ちゃってたのかな…」
 書生のブラウスと袴のまま、服も着替えずに横になってしまっていたアヤナは重い頭を起こし、窓の外を見る。
 障子の先に見える空は、塔のある島とは打って変わり、抜けるような青空が広がっている。
 眠っている間に、飛空庭はアクロポリス上空に達していたのだった。
「そういえば…あれは何だったんだろう…?」
 エミル世界の天まで続く塔に辿り着くまでの、本来ならあり得ないような出来事の連続。
 そして、真っ白な中に見えた人影のようなもの―――
 はっきりと確認も出来ないまま咄嗟に外に出てしまったせいで、具体的なことは何も分からないままだ。
 それでも、どうにかして記憶の糸を手繰り寄せる。
 確かに見た人影…タイタニアに特徴的な輪と翼、そして緑を基調とした鎧に背丈ほどもあるような巨大な槍を持ち、あたかもアヤナの前でルーラーに立ちはだかってくれていたようにも見えたその姿。
 もし、あれが本当に自分を助けてくれたタイタニアの誰かなのだとしたら…気が動転し、冷静さを完全に欠いていたにしても、お礼さえせずに塔の外に出てしまった。
 もしまた会うことがあれば、今度はそのことを謝ってお礼を言わないと…―――
「また会う、…………かぁ…」
 その言葉を何気なく口にしたとき、心の中で何かが大きく揺れ動くのを感じたような気がした。

「それじゃ、そろそろ行こうかな」
 アップタウンの空港で飛空庭を降りたアヤナは、ギルド商人のところに向かう。
「いらっしゃいませ、どのようなご用件で?」
「倉庫に預けてある火のスクロールを5個ください」
「かしこまりました。しばらくお待ちください」
 ギルド商人はそう言って、後ろにいたキャリアーの荷物を取りに行った。
 多くの人が倉庫を利用しているのに、いつもながらギルド商人はどうやってあのキャリアーは荷物を詰め込んでいるんだろう…などと眺めていたアヤナの視界に一人の男の姿が入る。
「アヤナさん、こんちゃー」
「こんにちは〜、ケールさん」
 ギルド商人からスクロールを受け取ったアヤナは、フォーマルにもカジュアルにも合いそうなシャツに大天使のパンツ、そして光砲・エンジェルハイロゥを持ったドミニオンのガンナーに笑顔を見せた。
「いま何してましたんー?」
「ちょうど忘却の庭から帰って、スクロールを補充していたところですよ」
「なる」
「ちょっとぉー、人のこと差し置いて誰と話してるのよー!」
 そこへ、ケールの背後にいた少女が二人の間に割って入る。
「…? どなたでしょうか?」
「こいつ誰?」
「わたしと同じリングのエレメンタラー、アヤナさんですのー」
 ケールは頭にゴーグルを載せ、自身と同じように身軽そうな服装をしたタイタニア少女にアヤナを紹介する。
「リングの方ではないですよね? ケールさんのお知り合いでしょうか?」
 どこかで会ったことがあったかな…と記憶をめぐらすアヤナに、ケールは全てを把握したような表情で説明を始めた。
「アヤナさんはまだ武神とかパートナーのことを何も聞いてないようなので説明すると、この子はわたしが一番パートナーにしている武神ですん」
 武神とは最高レベルの者だけが使うことのできる武器に宿る存在であり、ある方法を用いることによりパートナーという形でどこへでも一緒に行動できるようになるという。
「パートナーができてからは、このテリアっちを連れ歩いてることが多いかも!」
「こんにちはー…あ、ケールさんのパートナーだw」
 ケールがパートナーの存在について説明していると、どこからともなく物珍しそうにテリアを見る少女が現れて声をかけた。
「杏さんもこんちゃー」
「こんにちは〜」
 エレメンタラーの職服である藍染の衣と袴を身につけた少女、真希杏(まきあ)は感心しながらテリアを観察している。
「真希ちゃんも武神とかパートナーさんのこと知ってるの?」
「もちろん知ってるよー。 あ、興味があったらどうすればいいのか教えてあげるよ」
「そっかぁ…何も知らないのは私だけだったんだ」
 自身の不明を恥じつつ、アヤナはどうすれば自分にもパートナーができるのかを聞いた。
「パートナーっていうのは、さっきケールさんも言ってたように最高レベルの武器を手に入れて、その武器が生まれる際に込められた魂を解放することで、その魂として宿っている“武神”がパートナーとして人の姿を取り手を貸してくれるようになるんだよ」
 杏の言葉に、ケールも頷く。
「全体の流れはこういう感じなんだけど、最高レベルの武器を本当に手に入れるのは…かなり大変だよ?」
 言葉の最後で杏は少し真剣な表情で言った。
「そんなに大変なら…私にはムリなのかな、、」
 かなり大変だ、という言葉にアヤナは表情を曇らせる。
「あ、今のは誰でも手に入るようなものじゃないって意味だし、アヤナさんが手に入れに行く時は私も協力するよw」
 杏はアヤナを励ますように笑みを浮かべて言った。
「確かに途中はかなり骨が折れると思うけど、自分のパートナーになった武神は一緒に戦ってくれる相棒にも、窮地を脱するための守護者的な存在にもなってくれる時もあるから…手間をかけるだけの価値は十分にあると思いますよ」
 テリアの肩を抱いて言うケールに、今度は杏が相槌を打つ。
「それに、人によっては伴侶(フィアンセ)みたいな意味で本当に最高のパートナーにもなると思うしね」
「伴侶みたいなパートナー…?」
 ドクン…―――
 ケールの言う伴侶、という言葉にアヤナは少し前に起きた出来事を思い出していた。
 忘却の庭園からエミル世界のアップタウンに戻るために通った天まで続く塔で、思いも寄らない魔物に遭遇したときのこと。
 絶体絶命の瞬間、危機を救ってくれた人影らしきものが見えたこと。
 あまりの非常事態にその姿をきちんと確認する暇もなかったものの、うっすらと見たタイタニアの戦士のような姿―――
「アヤナさん? どうかしたの?」
「……!?」
 ふと我に返ったアヤナの視界に、心配そうに顔を覗き込む杏の表情が飛び込んでくる。
「なんか顔が赤いけど…調子でも悪かった?」
「え? あ、…何でもないですよ〜」
 ケールの何気ない一言で急に起きた動悸を隠すように、アヤナは慌ててその場を繕った。
「何か思い当たることがあったみたいだけど…まあいっか☆」
「そ、それで…パートナーさんのためには、まず最初に何から始めるんでしたっけ?」
「まずねー、ドミニオン世界に行って古の武器っていうのを手に入れなくちゃいけないんだけど…そういえばドミニオン世界には行ったことあった?」
「ドミニオン世界…」
 杏の説明から想像だにしていなかったドミニオン世界のことが飛び出し、アヤナは思わず身を固くした。
 機械仕掛けの悪魔と呼ぶ者もいるDEMに侵略されるドミニオン世界の窮状を訴え、協力者を募るためにドミニオンの傭兵がエミル世界に姿を現したとき、故郷の危機を知ったドミニオンのみならず腕に自信を持つ多くの冒険者がDEMとの戦いに身を投じた。
 そんな中で、アヤナはどうしてもドミニオン世界に足を踏み入れることができなかった。
『我々の世界は危機に瀕している。 エミルやタイタニアの者たちまで名乗りを挙げてくれたのは感謝の極みなのだが…それには条件がある。
 DEMどもと互角に渡り合えるだけの、真の実力ある者でなければ遠からず遠慮願うことになるだろう』
 エミル世界に現れたドミニオン傭兵はさらに言っていた。
『我々の世界に来てもらうことがあれば、すぐに分かるだろう…戦いに対する備えは、いかなる時であっても怠ることがあってはならない。
 例えるなら道行く冒険者同士であっても、不意打ちをしてでも戦いを制し勝ち取る。 冷酷なようだが、これがDEMどもと戦う我々の正義であり、真に実力ある者を求める理由でもある』
 そして最後に、誰も己の意思に反した結論を強いることは出来ない…己を未熟と思う者は我々のことは気にせず、この世界にとどまり更なる研鑽に励んで欲しい―――というものだった。
 ―――何より、自分の精霊魔術の実力がまだまだ未熟なことは自分自身がよく分かってる。
 長い付き合いのある親友であり、ドミニオン世界での戦いに多くの功績を持つマシンナリーのエミィ・クレージュも、冒険者同士でも戦うというウワサにドミニオン世界へ近付こうともしないことに対して
「そこが性格の部分を含めて、アヤナさんのいいところでもあるんですよ。 あそこは戦いの実力と同じくらい、心が本当に強く持てる人でないと危険すぎますから」
 そんな風に言うほどに、自分にとってドミニオン世界は遠い存在―――そう思っていたのだった。

「どうすればいいんだろう…私ドミニオン世界なんて行ったことないし、今から行っても真希ちゃんの言ってた古の武器を手に入れるどころじゃないし」
「うーん…それなら、ムリに自分で取りに行かなくてもいいんじゃない? 誰かに取ってきてもらうとか」
「ドミニオン世界で戦いに負けるのは大きな損失が起きるし、わたしもそれがいいと思うー」
「それがいいかも…何も、最初から最後まで全て自分だけでやらなくてもいいんだよね」
 杏とケールの提案に、アヤナは表情に明るさを取り戻してどこかへと歩き始めた。
「ドミニオン世界のことは、私にはどうにも出来ないけど…あの子にならきっと大丈夫だしね」
 杏やケールらとともに加わっているリングのマスター―――霧羽なら、きっと無事に手に入れられる。
 そう期待を抱きながら、アヤナは霧羽のいる飛空庭を目指して駆け出した。



−第2章に続く−